02.食堂 *途中から赤髪視点
娘に起こされた赤髪海賊団の大頭、シャンクスは右頬を赤く腫らしながらも、食堂に来ていた。
食堂ではクルー達が各自好きに食しており、シャンクスも適当に炒飯を頼み、もぐもぐと口に運び続けていた。その背中は何処か哀愁を漂わせている。
「お頭、おはようございます!」
「おう、おはよう!」
クルー達に挨拶をされれば食事の手を止め、先程の哀愁はどこへやら、にっ、と大口開け普段通りの眩しい笑顔で手を挙げる。しかし数十秒後、また雰囲気は元通り。
そんなシャンクスが見ていられなくなったのか、赤髪海賊団の副船長、ベンが声を掛けた。
「お頭、その手痕はどうした?」
「あー…ほら、ソラからの愛だ、羨ましいだろ!」
ぎくり、と肩を揺らし、見え透いた嘘を吐く。シャンクスにこんな痕を付けるのはただ一人、娘のソラだけだと、聞く前から分かっていたベンは呆れたようにマッチを取り出し、くわえていた煙草に火を付けた。白い煙とにおいが食堂に漂う。
「…ったく、あんたって人は。後で謝ってこいよ」
「いや、一応謝ったんだが無視されてな…どうすりゃいい?」
明らかに声のトーンは下がり、悩んでいた。四皇の威厳など微塵も感じない、そこにはただの不機嫌な娘の事で悩む子煩悩な親が居るだけであった。
「なんだなんだ、お頭、またか?」
「お頭はソラを怒らせる天才だな!」
そんな話している二人のところに野次を飛ばすように入ってくる赤髪海賊団の幹部の二名、ドレッドヘアーのヤソップと身体の大きなラッキー・ルゥ。ルゥに関しては常に肉を食しており、今もまた肉を片手にひたすら頬張っていた。
「お前らなぁ、他人事だからって…」
「まあ、あながち間違いじゃねェだろ」
「お前もか!!」
反論しようとするもベンすらも同意してくる。完全に此方に非があるのだと。呆れた視線がグサグサと突き刺さり、地味に痛い。
「まずお頭、ソラに構いすぎなんだよ!おれの息子と同い年くらいだろ、特に女子となりゃ…」
村に置いてきた己の息子の事とソラを絡めながら得意げに話すヤソップ、息子の事はもう何十回とも聞いた話だ。普段のシャンクスなら何となく聞いてあげていただろうが、今はそれどころではなく、ある一点を見つめていた。
理由は此方と離れたテーブルで黙々と一人で食事を口に運ぶ愛娘を見つけたからだ。先程食堂にやってきたのだろう、ついじっと見詰めてしまう。するとソラはその視線に気がついたのか普段の倍の速さで食事を終え、食器を素早く片し、食堂から出ていった。
「…ありゃ相当ご機嫌斜めだな」
「だよなあ…」
「…って、おれの話聞いてるか?!」
「…ああ、また今度聞いてやる。おれはもう一度ソラと話してこようと思う」
そう言いながらお頭は食事を終えた食器を置いたまま、食堂を出て行った娘を追いかけて行く。その忙しない背中を見送る三人。
「お頭とソラなら大丈夫だろう」
「さぁて、お頭の問題も解決した事だしもっと食おう!」
「お前はもう食ってんだろ!」
「なあソラ、おれが悪かった!すまん!この通りだ!」
「…」
「無視しないでくれ〜!!」
泣きそうなお頭を後ろから暖かく見守る船員達だった。