青空日和


Info ClapRes Pict Memo Top

01.二日酔いの朝



ある大きな海賊船の甲板にて、風に吹かれる少女一人。


空を見上げれば、太陽は眩しくきらきらと輝き、雲一つない見事な"青"が広がってた。白いカモメ達は翼を広げ、青空を自由に駆け巡っている。
その様子を傍観しながら大きく両腕を広げ、息をいっぱい吸い、吐く。この動作、深呼吸を数回繰り返せば、少女の一日がやっと始まるのだ。


ーーー今日も快晴、航海日和だ!


「…清々しい気分になってる所悪いが、お頭を起こしてきてくれないか?」


背後から投げかけられた成人男性特有の低い声。正確に言えば平均の何倍も低い声をしており、そのせいかいつ聞いても威圧感を発している声の主の方へ、苦虫を噛み潰したような顔で、くるっと振り向いた。


「…また?」

「ああ、昨日散々飲んでいたからだろう、中々起きなくてな。…ソラ、お前が起こしに行けばすぐ起きるはずだ、頼む」


そんな声の主はほぼ常に煙草を蒸かしている"海賊団"の副船長、ベン・ベックマン。高い身長、グレーのような髪、顔に大きな十字傷。初めて見た人は圧倒されるであろう要素が詰め込まれている人物。見かけによらず、頭がとても良く、面倒見も良く"お頭"の右腕的存在だ。そんな彼にはあまり逆らえない少女ーーーソラはその頼まれ事を断る事は出来ず「はい」と一言返事し、お頭とやらを起こしに、部屋へ出向くのであった。







船長室の木製の扉を勢いよく開ける。室内は中々広く、小さな傘付きランプが置かれた机に備え付けの椅子、窓にはいつかのソラが贈った一輪の造花、そして備え付けられたベッド。床には乱雑に衣服が置かれていたりするが、割とシンプルな部屋になっている。

が、もう見慣れている室内故か、特にこれといった感想は抱かない。ただ、強いて言えば、ベッドで心地良さそうに寝ている部屋の主のことだろうか。

ふぅ、と息を吐き、その主の方へ歩み寄る。綺麗で記憶に焼き付くほどの赤色の髪に、顎と鼻下に髭、左目には三つの傷痕、そして隻腕。特徴的な容姿をしている主の男は酒の匂いを微かに漂わせていた。

「……ぐー…」

この寝息を立てている男は、かの有名な赤髪海賊団の大頭、またの名を"四皇"の赤髪のシャンクス。そして、ソラのーーー親。

「…起きて、おとうさん!いつまで寝てんの!」

そんな有名な海賊団の大頭であろうが、ソラには関係ない。何せ、その前に親子だ。無理矢理起こすことだって朝飯前だった。白色の掛け布を遠慮なく引っ剥がし、起きて貰うために大きめな声量で話し掛ける。
すると、親ーーシャンクスは目をうっすらと開け、愛娘の名前を口にした。

「……ん……ソラ……?」

「私だよ、またあんなに飲んで…!」

「…そうか、寝ちまったのか……」

娘は呆れたように苦言を漏らすが、本人は全く反省してない様子で聞き流し、窓から差し込む太陽の光に眩しそうに目を顰めていた。そして何より気分が悪そうだった、二日酔いだ。

「またそうやって聞かない…酒禁止にされたい?」

反省してない駄目親に怒り始める娘、会話だけ聞いているとどちらが親で子なのか分からなくなる。そんな風に朝から怒る愛娘、ソラの腕をぐいっと引っ張る。バランスを崩したところをそのまま片腕で抱き留め、さも愛しそうにぎゅうっと抱き締める父、シャンクス。
微かに香る酒の匂いが鼻をくすぐる。

「ちょっと、離して、私はもう起きるから…!」

「ソラはいつも早起きで偉いなあ…でも、たまには遅くたって良いんだぜ、なあ?」

だから一緒に二度寝しよう、とでも言わんばかりに双眸を細め、柔い笑みを浮かべる。しかし、ソラは慣れているのか、流される事なく怒ったまま相手の胸元を両手で押し、なんとか離れようとしていた。
・・・が、力では全く敵わず無駄に体力を消耗するだけで。

「シャワー浴びたばかりか?良い匂いがする」

すんすん、くんくん、とまるで犬のように髪に鼻先を極限まで近付け、匂いを嗅ぐ親。毎日毎日飽きないのか、これも習慣らしく娘は呆れ果てていた。

「別にどうでもいいでしょ、さっさと離して」

「んなつれねェ事言うなよ、まだ朝のちゅーもしてもらってな…」

「…いい加減にしないと、嫌いになるから!」

「!」

無駄口叩き続けるシャンクスに面倒臭くなったソラは口元に掌を押し付け、それ以上喋るな、と険しい顔をした。すると相手は「嫌いになる」というワードが効いたのか、ばつが悪そうに眉間に皺を寄せた。

やっと静かになり、思わず溜息を吐く。抱き締める力も弱まったので手も離し、腕の中からするりと抜け出そうーーー


としたものの不意に手首を掴まれる。

「!?」

又もや引き寄せ、ソラが先程押し付けていた掌に唇を近付けたかと思いきや、そのまま「ちゅ、」とラップ音を軽く立てつつ口付けた。犯人の二日酔いらしい赤髪は視線をこちらに向け、愉しそうに口元に笑みを浮かべていた。







その数秒後、船長室に「スパァン」と叩く音が響いた。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -