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標的10 星の守護者




「な、え、ええぇ?!」

私の告白に、ツナ君は顎が外れるんじゃないかってくらい、口をあんぐりと開いている。大丈夫かな、あの口、もとに戻るか?先程からの色んな事実に、ツナ君の頭の中はパニックだろうな。

「リボーン!なんで関係ない貫薙さんを巻き込むんだよ!それに、女の子にこんな危ないもの……!」

関係大あり何だけどな。実は。
本当にこの次期ボス候補の少年は優しすぎる。レディファーストなんて、こんな殺伐とした実力主義のマフィアの世界で、されたのは何年ぶりか。

「守護者を選んだのは俺じゃないぞ。それに、桜が星の守護者っていうのは、お前が生まれた時から、決まってたことだからな。」

「は?……どういう、事だよ……。」

ツナ君が疑問を抱いた顔で、リボーンさんと私を交互に眺める。
流石にもうバラしてもいいよな。リボーンさんの方を窺うと、目線が合う。そして、こっくりと頷いた。
よし、ここからは私が説明を変わろう。

「ボンゴレは何百年と続く、大きなマフィア組織だ。それは、わかってるな?」

ツナ君が少し間を置いて逡巡したあと、首を縦にふる。

「その長く続くボンゴレには、初代プリーモの時代から、連綿と仕える家系があるんだ。」

まぁ、平たくいえば忠臣の家系と言ったところか。

「幾つかあるんだが、そのうちの一つが私の家、貫薙家だ。」

「貫薙家は歴代でも何人も星の守護者を排出してる、結構ボンゴレの中では有名な家系だぞ。」

リボーンさんの注釈が入る。ありがたいが、その言い方は少し恥ずかしいな。微笑を浮かべながら、頭を掻く。

「私達、ボンゴレに仕える一家の使命はボンゴレボスと、その家族仲間を護ること。命を懸けて。そして、ボンゴレの守護者の一人『星の守護者』を担う事。」

本来ならもっと早くツナ君の傍に仕える筈だったんだが、リボーンさんに止められてな。そう言って苦笑いを浮かべれば、リボーンさんが頷く。

「今のお前に一番必要なのは、護ってくれる有能な部下じゃねーからな。実際まだお前に護衛なんてのは早いんだが、緊急事態だ、仕方ねぇ。」

「……でも、そんな、そんなの……。」

ツナ君は苦しそうに目を細め、眉間にシワを寄せる。あぁ、またそんな自分のことでもないのに、彼は悲しそうな顔をする。

「おかしいよ、そんなの。生まれた時から、俺なんかのために、あんな風に……。」

ツナ君はそれ以上は言葉を紡がなかったが、言いたいことは分かる。
『怪我を負うことを、最悪死ぬことを、運命られているなんて。』
大方、そういう所だろう。本当にこの人は、情の深い人だ、深すぎる、と評するべきか。

「甘ったれてんじゃねーぞ。」

少し沈んだツナ君に、激を入れるように 、静かだが深く通る声が響いた。

「てめーが強ければ、昨日みてーな犠牲はもう二度と出ねーんだ。てめーの弱さで生まれた犠牲を、運命のせいにしてんじゃねえ。」

殴られたように、ツナ君は苦しげだが、それと同時に何かに気付かされたような表情を見せた。私としても、昨日の一件は私がもっと強ければ、私がもっとツナ君を守れていれば、どうにかなったんじゃないかと思う。だからこそ、ツナ君に厳しい言葉を掛けられるのは、少し申し訳ないというか、やるせないと言うか。
でもやっぱり、リボーンさんはいい家庭教師だと思う。ちょっと物言いはきつい所があるが…。
この少しぎくしゃくした空気から離れるために、苦笑いを浮かべ踵を返す。

「私も、この十日で修行し直してきます。ディーノさん手当て、ありがとうございました。」

去り際にディーノさんへ会釈し、病室へと続く廊下を曲がった。ツナ君はまだ納得の言っていない顔をしていたが、最初その瞳に写っていた、怯えや断るという言葉は、薄れていっているように思えた。
さて、病院服を着替えたところで、家に帰らないとな。学校なんて、いってられなくなってしまった。

うーん、父さん心配してるだろうか。一晩何の連絡もしなかったんだもんな。帰って一発目に鉄拳が飛んできてもおかしくないかも。
しかし家に着けば、そんな危惧は全くもって無意味だったと知らされた。

「おー、おかえりーお疲れさん。」

店先でのほほんと花束を作っている父親の、同じくのほほんとした言葉を聞いて、拍子抜けしてしまった。

「……聞かないのか……?」

流石に平日の昼間に、私がここにいては少々ご近所の目が気になるので、店内に入る。

「大体のことは家光から連絡があった。リングのこともな。」

「あー……なるほど。」

パチンパチンと、剪定をしている音が響く。そう言えば、このリングを配ったのはまぁ十中八九家光さんだろうしな。バジルがいた時点で、父さんに連絡が回っていてもおかしくはない訳だ。私の杞憂を返して欲しい。

「じゃあ、十日後の話も聞いてるよな。頼む、もっと強くならないと……。」

現在の私の家庭教師である父に、頭を下げて懇願しようとした所で、カランカランと、背後の店のドアが開いた。
つい反射的に営業的なにこやかな笑顔を浮かべ、振り返るとそこに居たのは。

「う、梅さんっ??!」

光を反射するプラチナブロンドの髪。背中の中ほどまで伸ばされたその髪を、後ろで一つに束ね、険しい表情で唇を引き結んでいる。その眉間や口元に刻まれた皺は彼女の人生の苦労を体現しているようで。少し頭を屈めながら入ってくる彼女のその背は、父よりも随分と高い。
彼女は私の実の祖母。貫薙梅。婿養子である父の義理の母に当たる人だ。

「全く、日本はどうも建物が小さくていけない。」

そう悪態をつきながら、祖母は眉間に刻まれたシワをさらに深くする。
かなり巨漢の彼女にとって、確かに日本的なサイズは小さいだろうと思う。一応彼女を流れる血の半分は日本人であるはずなのだが、彼女はイタリア人の父親の特徴を色濃く継いでしまったようだ。

「お久しぶりですね、お義母さん。」

なにか飲まれます?と訪ねながら、父が剪定バサミを置き、おもむろに立ち上がる。

「いいよ、父さん。私がやる。」

その父を再び座らせ、店の隅においてあった木の丸椅子を引っ張り出す。安物で、古く擦り切れているが、座り心地はなかなかだと思う。

「とりあえず、座って。紅茶でよかったか?」

「いや、久々にあんたの入れる日本茶が飲みたい。」

なかなか嬉しいことを言ってくれるじゃないか。長旅の荷物を私に預け、差し出された椅子に座る祖母。
その嬉しいリクエストに応えるため、少し重いカバンを背負い、二階への階段を登る。

茶を入れ、店に戻ってくれば、祖母は父との世間話に花を咲かせていた。その話に水を差さないよう、そっと、二人の手元に湯呑みを置けば。短いお礼の言葉とともに、啜られる茶。少しの間をもって、ふぅと、肺の空気全てを吐き出すような大きな溜息。

「あぁー、相変わらずあんたの入れる茶は美味い。」

本部の小僧共なんて、まともに日本茶の一杯も入れられないんだから。そんなふうに悲観と言うか、呆れというか何ともつかない溜息をまた零す。

「そりゃ、ありがたい。」

盆を胸に抱え、先程から胸のうちにあった疑問を口にする。

「梅さんがこのタイミングで来たってことはまさか……。」

コトリと音を立て、普段は精算などをしているカウンターに、湯呑みを置く梅さん。

「リボーンに頼まれてね、あんたの家庭教師をしに来た。」

そう言ってにやりと笑うその姿に、少し寒気が。別に梅さんの教示は嫌ではない。決して嫌ではないのだが、彼女の軍隊上がりとも取れる凄惨な修行というより訓練は、正直とてもキツイ。

「それは良かった。俺だともうこれ以上は桜を育てられない。よろしく頼みます。」

飲み終えた湯呑みを置き、父が頭を下げる。

「いや、あんたは良くやってくれてるさ。いつもありがとうね。」

目を細めて笑う梅さん、その仕草は決して還暦前の老婦にはみえない。

「そんで、こっからが本題さね。」

梅さんもカラになった湯のみを置き、声色が変わる。あ、なんかこの感じ、怒られそう。

「あんた、負けたんだって?ヴァリアーのとこのあの剣術小僧に。」

さすが梅さんと言ったところか、あの刺客を小僧扱い……、いや、梅さんの年齢からすればまぁ子供みたいな年齢だもんなぁ、そりゃ小僧か。

「自分のボスを前にして負けるなんて、まだまだなってないねぇ。」

「……。」

その言葉は的をいられすぎていて、何も返せない。黙って叱責の言葉を受け止めていると、梅さんは少し呆れた顔をして、人差し指でこめかみを叩く。

「花の技と樹の技は習得しているね。」

貫薙流の基礎とも呼ばれる攻式守式七型の技。この二つが習得できてやっと一人前と呼ばれる。勿論、しばらく前に父からは一人前を名乗る許可を貰った。

「今回私はあんたに、貫薙流の本来の姿を教えに来た。」

「本来の……姿?」

その意味深な言葉に驚き、微かに目を見開いて父を振り仰ぐ。すると父は、少し悲哀に滲んだ顔をして、微笑んだ。

「椿は、お前の母親は病弱だったからね。」

梅さんも眉間に刻まれた皺を深くして、腕を組む。
それは知っている、私の母、貫薙椿は生まれつき体がとても弱かった。しかし、代々貫薙家の星の守護者としての教育は、親から子へ一子相伝で伝えなくてはならない。
母は自分の身体では、私に守護者としての教育は出来ないと察し、当時婚約していた父、貫薙神司を代役に立てた、と聞いている。

「あの子の体では、花と樹の技を神司に伝えるだけで精一杯だった。」

絞り出すように声を出す祖母。確かに、私が物心ついた時にはもう、母は病院ぐらしであった。幼い頃の母との思い出は、その殆どが無機質に白い病室の中だったことを思い出す。

「それに、貫薙流は代々一子相伝。いくら親しき婚約者だとて、貫薙の血の流れていないものには、門外不出。」

父が私から盆を受け取り、空になった二つの湯呑みを乗せながら、口を開く。

「今回だけは、特例として認められたがな。しかし、やはり俺は貫薙の者では無い。お前に、貫薙の真髄を伝え切れていない。」

それだけを言うと、後はお義母さんに任せる、とでも言うように盆を片手に、父は二階へと続く階段の暖簾を潜った。
僅かな静寂が店内に残る。
梅さんは、その父の後ろ姿を見て微かに目を細めた後、小さなため息をついた。

「ま、そういう事さね。取り敢えず……。」

パシッと、膝を打って立ち上がる梅さん。なんだか纏う空気が変わったような。おや、これは教官スイッチ入ったかな。

「『花鳥風月』を持ってきな。」

先ほどの重苦しい空気など嘘のように、ニヤリと笑う鬼教官に、微かばかり…いや、結構ガッツリと命の危険を感じた。



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