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標的7 刺客登場



「ふぅー……。」

一息ついて、横目に見れば、ゲーム台が壊れそうなほどの勢いで、対決している獄寺と武。
フゥ太君と三浦ハルさんはその人外的な様子に釘付けになっているようで、とりあえず私は一時の休憩を頂くとしよう。

柄にもなく初対面の相手なんてするもんじゃない。肩が凝ってしまう。
伸びをして、凝り固まった筋肉をほぐしながら、年相応に無邪気にはしゃいでいる彼らを眺める。
据え置きのはずのゲーム台が、奴らの動きに合わせるようにして、少し動いている気がするのは見間違いかなにかだろうか。心做しか、ミシミシと音が鳴っているような気もする。

「本気出しすぎじゃね…。」

確かに武は昔から、何かと手加減が下手な性格ではあったが……。
ゲーム台が奏でる悲鳴に耳をかたむけていると、別の異音が耳に入ってきていることに気付いた。

「……?」

微かではあるが、地鳴りのように響く音。そしてそれに伴う振動。

「お?なんだ?」

対戦ゲームに夢中になっていた彼らも、異変に気づいたようだ。なんだろう、言い表せないが、嫌な予感がする。
休息のため、体を預けていたベンチから立ち上がり、状況を伺おうと、外へ足を向けたその時。

今までとは比べ物にならないほどの、爆発音、そして、衝撃波。店内のあちこちからも悲鳴が上がり、何人かが倒れ込んでいる。フゥ太君たちも、耐えられなかったのだろう、膝をついている。
衝撃は、外から……。

「…っ!まずい、外にはっ!!」

ツナ君達は外の広場にある、飲食スペースに居たはずだ。巻き込まれていなければ良いのだが……。しかし、先ほど駆け巡った嫌な予感は、未だ顕著にその存在を私の中で主張していた。自動ドアが開くのすらもどかしく、外へ飛び出る。

「ツナ君!」

あたりを見回せば、隣のビルから硝煙が。先ほどの爆発音はあれか。そんなことよりも、だ。ちょうど広場の向かいに、ツナ君の姿を見つけ、駆け寄る。
すると、ツナ君は一人の少年に肩を支えられていた。男にしては少し長い、アッシュグレーの髪。その古風な口調さえなければ、女の子と間違えられてもおかしくはない端正な容姿。何より、額に灯った青い死ぬ気の炎は。

「バジルっ!?」

彼は家光さんの部下で、私も以前に何度かあったことがある。確かに手紙で、近いうちに日本に来るとは言っていたが、こんな早くに対面するとは聞いていない。

「っ!?桜殿!?」

「久しぶりだな……、だが、再会を懐かしんでる暇は、無いみたいだ。」

強烈な殺気を感じ、全身の毛が逆だった。振り仰げば、未だに硝煙の上がる穴の空いたビルから、ひとつ人影が。

「う゛お゛ぉぉい!!」

風にたなびく長い銀髪。左手に握られた、と言うよりは包帯で一体化している、と言った方が正しい刀。そして、喪服のような漆黒の姿。私はこの人を、どこかで見たことがある気がする。

「なんだぁ?外野がぁ。邪魔するカスはたたっ斬るぞぉ!!」

その言葉を放つが早いか、左手の刀を振るう。そして響き渡る爆発音。

「危ないっ!!」

爆発の衝撃により、コンクリート片がこちらへまっすぐ飛んでくる。未だ体が固まって動けないツナ君ごと、横へ避ける。
見境ねーのかよ。広場は一瞬にしてパニックに陥ってしまっている。

「大丈夫か?ツナ君。」

「う、うん……、ありがとう貫薙さん……。」

取り敢えず怪我はないようだ。良かった。ここで死なれては、私が困る。

「くそ……すみません、桜殿、付けられてしまいました。」

傷口を押さえながら、申し訳なさそうに頭を垂れるバジル。かなり負傷しているようだ。

「いや、そんなことより、お前が日本に来たってことは……。」

「はい、親方様から、沢田殿に渡すため、『アレ』を預かってきました。」

やはり、予想していたとおりか。まさかこんなに早く訪れるとはな。

「誰だァ、そいつらは。」

ビルから飛び降り、こちらへと歩を進めてくる。まずいな、取り敢えず『アレ』だけでも死守しなくては。
ツナ君とバジルを守ろうと、前に出ようとしたその時、先ほどとはまた別の爆発音と硝煙が上がった。これは……?

「……?」

衝撃の瞬間に飛びすさったのか、傷一つないその男は、眉間のシワを一層深くし、怪訝な表情を浮かべている。

「その方に手を挙げてみろ、ただじゃおかねぇぞ。」

「ま、そんなとこだ。相手になるぜ。」

「獄寺君!山本!」

歓声を上げるツナ君。自分よりも一瞬遅れてゲーセンから飛び出た二人が、その銀髪の男と私たち三人を遮るように立ち塞がっていた。

「てめーらもカンケーあんのかぁ?よくわかんねーが、一つだけ確かなことを教えてやんぜ。」

その男は、先ほどの獄寺の爆撃に備え、低くしていた姿勢を上げ、ニヤリと、不穏に笑った。私はそれを見ただけで、ゾクリとうなじが粟立つ感触に襲われる。

「オレにたてつくと、死ぬぞぉ。」

その眼光は、幾人もの命を屠ってきたのか、先程より一層強くなった殺気に、ほんの僅か身がすくむ。

「その言葉、そのまま返すぜ。」

「ありゃ剣だろ?俺から行くぜ。」

その男の忠告は、二人のやる気をさらに増長させてしまったようだ。どこから持ってきたのか、日本刀を構える武。さては、リボーンさんが用意してくれたのだろうか。
まだ時雨蒼燕流を知らないのに、日本刀に手を出すところは、親子似てるというか、なんというか。

「やめてください!おぬしらのかなう相手ではありません!!」

確かに、バジルがここまで苦戦するんだ。素人に毛が生えた程度の彼らでは、秒殺がオチな気がする。というか、私でも対等まで持っていけるのか疑問だ。

「いや、バジル。ここはあの二人に任せて、お前に頼みたいことがある。」

「桜殿?」

清掃員が、掃除でもしていたのだろう。すぐ傍に落ちていた、モップを拾い上げる。

「どのみち、倒すことは無理だ。お前がそんなに疲弊しているんだ。」

実力の差は分かりきっている。そう言いながら、グッと、モップの柄の部分を踏みつけ、強く引っ張る。バキッ、という音と共に掃除部分の柄と、棒部分が切り離される。緊急事態だ、これ位の器物破損は許してもらいたい。

「バジル、『アレ』と一緒にボスとここから離れてくれ。」

「ボスって……、え?貫薙さん?!」

「っ!ですが桜殿、沢田殿の護衛は本来ならば……」

「そんなことを言ってる場合じゃない。」

即席の武器を、試しに振ってみる。
やはり、軽すぎるな。心許ないことこの上ない。こんなことになるんだったら、『花鳥風月』を持ってきておくんだった。

「怪我をしたお前よりも、私の方が時間を稼げるだろ。ボスを頼む。」

ツナ君が驚きと疑問に満ちた顔をこちらに向けている。あぁ、そう言えば、先程からツナ君をボスと呼んでしまっているな。まぁいいか、バジルと知り合いなこともバレてしまったし、こうなった以上は、私が星の守護者だと、ツナ君の護衛者だとバレるのも時間の問題だ。
だが、今は説明している暇はない、と武たちの方へ振り返った瞬間、広場に響く爆発音。その硝煙の中で、地に倒れ伏したのは。

見慣れた黒髪。つい、カッと脳髄が熱くなる。ダメだ、今は任務中だ、私情に流されるな。恐らく、大きな怪我はしていないはずだ。あいつの本能的な戦闘スキルは、幾つか現場を経験してきている私ですら、恐ろしく思う時がある。

「おせぇぞ。」

その爆煙の中、ダイナマイトを投擲しようと構えた獄寺へ、息もつかせぬ早さで間を詰め、頭へ躊躇のない回し蹴り。
短い悲鳴とともに、起き上がらなくなる獄寺。まずい、奴の動きが、思っているよりも早い。私で追いつけるか。

「う゛お゛ぉい、話にならねーぞぉこいつら。」

奴は、己の髪と同じく銀の刃を高く構え、これもまた全く躊躇うことなく、獄寺へ振り下ろす。

「死んどけ。」


あともう数秒あれば、獄寺の首が地面に転がる。そんな所で、広場に響く金属音。
振り下ろされた銀の刃を、安っぽい棒切れで、あと既のところで受け止めていた。

「あ゛ぁ?また新しいゴミかァ?」

受け止めた体勢のまま、抑え込まれかけるので、一旦弾き、距離をとる。
体格差や男女の差があるため、馬力比べではこちらが不利だ。

「ゴミか、そのワンランク上かは、もうちょい楽しんでから決めてくれ。」

取り敢えず、倒れた二人から離れなくては。幸いなことに、目の前の刺客は標的を私に変えたようだ。この装備では、全力とは行かないがなんとか時間を稼ぐ事くらいは出来るはずだ。

「貫薙流 花の技、呉の型『 孤高の白百合 ココウノシラユリ 』。」

刃が無い以上、斬撃攻撃はほぼ無意味だ。殴打か突きで戦うしかない。
奴の左腕へ向けて、突きを繰り出す。獲物を持つ手は、持たない手よりも、少し守りづらい。

「ほお。」

ほんの少しの重心の移動で、男はその鋭い突きを避ける。無駄がない、しなやかな動きだ。わずかばかり外套にかするが、これは奴の想定の範疇だ。ほんの僅か、攻撃がかする程にしか回避しないことによって、体勢の乱れを防ぎ、次の攻撃へ移りやすくする。緊迫した距離の中、奴は余裕そうにニヤリと唇に弧を描いた。その笑みに、再び私は言いようのない、危機感を感じた。
このまま攻撃を続けては、……まずい!
そう直感し、連続攻撃の型を中止する。引き戻した棒を縦に構え直し、前方の地面へ叩き下ろす。

「貫薙流 樹の技、肆の型『 薄憐梅花 ハクレンバイカ 』!」

地面を叩き打った衝撃により、後方へ退避する。防御の型である。だが、退避行動は読まれていたようで、すぐに距離を詰められる。

「お前は少しは骨がある見てぇだなぁ!!」

鋭い風切り音を伴って、横薙ぎにされる刀。だがその刀が振られる瞬間、なにかの違和感を感じた。
なんだ?あの、刀身に空いた穴は。
複数個、刀身に等間隔に開けられた穴、剣士の割に、先程から繰り返される爆発。私はほぼ無意識的に、受け止めた攻撃をそのまま右へ流していた。

右耳をつんざく爆発音、やはり、あの穴からなにか火薬のようなものが出ているのか。ちらりと、吹き飛んだ右側の地面を見て思う。

「う゛お゛ぉい!その流派、どっかで見たことがあるぞぉ。」

ブン、と準備運動のように刀を振りながら、興味深そうに口を開く。

「あ゛ぁ、思い出した。貫薙流、確か九代目側近の、ゴツいババァがそんな技を使ってやがったなぁ。」

恐らく刺客が口に出したその女性は、私の実の祖母、貫薙梅さんのことだろう。それにしても、梅さんのことを侮辱するとは……なんて恐ろしい、この人は命が惜しくないんだろうか。もしこれが梅さんに聞かれていたら、微塵切りではすまない気がする。
やばい、想像するだけで悪寒が……。って、そんな話をしている場合ではない。

「梅さん……、貫薙 梅を知っているということは、あんた……、ボンゴレの者か。」

そしてその喪服のような黒い服、並大抵の者では無いと察せられる高い実力。つまりこいつは。

「気づいたようだなぁ?察しのいいやつはめんどくせぇ。とっとと始末するに限るぜぇ。」

先程よりも格段にスピードを上げて、猛攻が始まる。恐らく、奴はボンゴレ所属の暗殺部隊、ヴァリアー。どんなに難易度の高い任務も、完璧に遂行するといういろんな意味でも名が知れている部隊だ。実力は高いが、癖のある人材が多く、御すのに苦労していると、話には聞いていたが、部隊の構成員を見たのはこれが初めてだ。

「なぜヴァリアーが、こんな所に……。」

「シラきってんじゃねぇぞぉ、ガキぃ。テメェらこそコソコソと、何を企んでやがる。」

銀髪の男の、その言葉に少し眉を潜める。まさかこの男、まだバジルが『アレ』を運んでいることを知らないのか。それに、ツナ君が後継者候補の一人であることも。
ならば、まだ好機だ。ここでツナ君と『アレ』が逃げおおせれば、まだ最悪のパターンは回避できる。

「その目ぇ……。」

棒と刃を合わせ、鍔迫り合いの最中、その男が目を細めて笑う。その笑みに、意識を戦いへ引き戻す。

「頭ン中で算盤弾いた目だ。……やっぱ、ここには何かあるなぁ……?」

この男、脳みそまで剣士かと思ったら、思いのほか聡いようだ。攻撃の力を流し、再び距離をとる。あの距離は薙刀……今は棒だが、には不利だ。近すぎる。
全く、格が上の相手の前で考え事とは、弛んでいるな私も。

「ここでテメーをぶちのめして、ゲロっちまわせてもいーんだがァ…。」

鋭く尖った切っ先が、私に向けられる。何だろう、先程刀身に感じた違和感以上のものを、男の左腕から感じる。だが先ほどとは違って、その違和感が何なのかは、明確に分からない。

「テメーよりも、あっちのガキの方がペラペラ喋りそうだからなぁ……。テメーはここで死んどけ。」

チラリと、私の肩越しに後ろへ目線を向けている男。あの二人はまだ逃げれていないのか。負傷したバジルを連れては、当然か。ツナ君たちの方へ振り返りかけるが、やつはそれを許さず、一瞬私の意識が背後に向いたところを正確に狙ってくる。
雰囲気が……、さっきとまるで違う……?!

今までの攻防の中でも一層大きく、大上段に振りかぶる。避けきれない。
単調な攻撃のはずなのに、スピードが段違いだ。下手に回避行動を取れば、腕や足の一本持っていかれそうな程で。

「貫薙流 樹の技、呉の型『 刹檪椛 サツレキモミジ 』。」

刹檪椛は、両手で武器を額の上に掲げ、攻撃を受け止めるための防御行動をとる型。体格の勝る相手の、大上段からの攻撃を受け止めるために効果的な技だ。シンプルなため、応用も効きやすく、この技から花の技へ繋げて反撃もし易い。筈だったんだが…。

「……っ!?」

すぐさま攻撃を流して、反撃に移るつもりが、腕が動かない。神経が痺れて、自分の意思に反して微動だにしない。
そんな戸惑いを浮かべ、焦る私を見て、奴はまた、ニヤリと笑った。

「流石にもうちっとマシな獲物持ってりゃ、ここまでじゃなかっただろーがなぁ。そんなチンケな棒じゃ、直にクルだろぉ?」

その言葉と、耳に響く一層高い金属音に、私は全てを察した。私の敗北すらも。
大上段に構えた攻撃は、ただの振り下ろしでは無かったのだ。鋭く力を込め、衝撃波を相手の武器に打ち付けることで、獲物を持っていた手、それに繋がる神経全てを麻痺させる。そんな攻撃を真っ向から受け止めてしまった。
更に、今使っている私の即席の武器は、安物の棒だ。その衝撃波は、鋼などを使用して作られた通常の武器よりも、直接的に腕に届く。

「最初っから、そんな粗末なもんでオレにかなうなんて、思ってねぇだろぉ、……なあ゛ぁ!!」

言葉と同時に、奴の腕に力が篭ったのが分かった。ガチガチと悲痛な音をたてながらも、なんとかその形状を守っていた棒が、中央から真っ二つに分かれた。力の入れ方を垂直に落とすのではなく上下に刀を動かすことによって、ノコギリのように切り落としたのだ。
棒を切り落とした刀はそのまま、私の身体を切り裂いていく。一瞬、冷えた刀身を感じその刹那、感覚は血液の溢れる熱さに変わる。

「ぐあっ!!」

吐き捨てるように短く悲鳴を吐き、ぐっと唇を噛み締め、倒れることは防ぐ。
左肩から右脇腹へかけて、長い裂傷だ。ジワリと服が血色に染まってゆく。
未だ、腕には感覚が戻らない。それと対比するように、裂傷箇所の痛みが鋭く脳髄を刺す。

「う゛お゛ぉい、まだ倒れねぇかぁ?その根性だけは、見上げたもんだなぁ!!」

強烈な回し蹴りが、未だ微動だに出来ない身体へ、叩き込まれた。面白いように吹っ飛び、ビルのガラスへ叩きつけられる。けたたましく、ガラスが割れる音。
回し蹴りの衝撃で、なんとか戻ってきた腕の感覚を再認識しながら、ヨロヨロと立ち上がる。

「ゲホッ……。」

そこそこ、いやかなり効いた。意識が飛びそうだ。なんとか一歩前に踏み出すが、力が入らず、地面に体を転がせる。

「ぐッ…………。」

なんとか身を起こそうと、拳に力を込め、地面に打ち付ける。が、そんな私に落ちる、絶望的なまでに冷えた、影。

「さっきのガキどもよりは、楽しめたぜぇ。」

非情に告げられる死刑宣告。あぁ、たいして守護者として働いてもいないのに、私はこうやってあっさりと死んでゆくのか。圧倒的な格差の前で死を自覚すると、人間というものは随分心は落ち着いて、冷静に物事を捉えるようだ。
刀が振り下ろされる光景が、嫌にゆっくりと網膜に焼き付く。体は一ミリたりとも動かない。ここまでか。自分でも驚くほど、やけにあっさりと死を認めた時、
その状況は覆る事となった。

振り下ろされるやつの左腕を掴む手。
クロスのエンブレムが描かれたグローブを装着したその手の主は、先程逃げろと告げておいた、私の護衛主だった。



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