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第2話 不審



「あぁー!今日も朝から疲れるぜ……。」

朝一から緊急の討伐任務なんて、本当にアラガミの方も仕事熱心なこった。
予定外の任務発注にこちらとしてはてんてこ舞いなんだがな。
第二部隊、という支部二番目を表明している名を背負っているにも関わらず、部隊構成員がたった三人しかいないとは。

朝一から、外部居住区を囲むアラガミ装甲璧の近辺に小型アラガミが複数体発見されたと、緊急任務が入った。
任務自体はつつがなく終わり、愛しのヒバリちゃんが待つアナグラへと帰還するため、壁のゲートを潜り、外部居住区内に停められているジープへと移動している最中だ。帰りは確かに急ぐ必要が無いのは分かるが、せめて、ゲート近くまで車を回してくれればいいものを。

この後は確か、昼過ぎ頃からもう一つ、討伐任務が入っていたはず。
と、隣を歩く俺の隊の副隊長ブレンダンに確認をとる。


あぁ、そう言えば近々新入隊員が数名、アナグラに増えるらしい。
うちにも配属してくれると有難いんだがなぁ。そうすれば、ブレ公たちにももう少し楽をさせてやれる。

「あ、そういやぁ、お前ら朝飯まだか?」

「はい!朝から緊急任務だったので、食べれてないんですよー。」

前方から、元気な声が響く。
先程まで乱射しながら高笑いしてたとは思えない。もう一人の俺の隊のメンバー、カノン。入隊してまだ一年の新入隊員だ。

「よーし、んじゃ、まだ次の任務まで時間もあるし、飯行くか!」

ブレンダン。と、隣へ投げかければ、いつもの返事は帰ってこない。
あれ、とその違和感に気づき、くるりと振り返れば奴は、数メートル後方で立ち止まっていた。
異国人じみた水色の視線は、こちらを向いていない。

「どーしたよ。ブレ公。」

何度か声をかけるが、返事は全くもって返されない。
その様子に少し疑念を感じ、数歩駆け足で戻り、彼と同じ方向へ視線を向ける。
少し身長差はあるが、見えるものに違いはないはずだ。恐らく。

「教会…………いや、孤児院……か?」

孤児院自体は、この時代そう珍しいものという訳でもない。寧ろ、親を失う子供が多いこともあってか、慈善家が独自に、子供を受け入れるようなこともあると聞く。
確か俺も、昔住んでいた所の近所に孤児院があったなぁ。外部居住区らしいその雰囲気に、感傷的になる。
だが、目の前の孤児院に、なんだろう、なんだかしっくりこない感じがして、首を捻る。

「……静かすぎやしねぇか?」

そう、俺自身、孤児院という施設に足を運んだこと自体はないが、こういった、子供が沢山いるところはもっとこう、人の息遣いをたくさん感じられるほどにざわついているものなのだが。

目の前の孤児院は、ひっそりと静まり返っていて、子供の一人も見当たらない。

「さっき、フェンリルの制服を着た二人組が、そこに入っていった。」

「はぁ?なんでこんな所に?」

わからない、と頭を振るブレンダン。そりゃそうだ。俺だって皆目検討もつかない。

ここは、外部居住区。その中でもさらにアラガミ装甲壁近くのエリアだ。居住区の中では、かなり危険度が高い地区だと言える。
そんな所、しかも孤児院という場所に、フェンリルの人間がノコノコとやってくるだろうか。

「なんだか……、変な違和感を感じたんだ……あの二人組に。」

ブレンダンが、珍しく俺にわかるほどに嫌悪感を滲ませながら、渋く口を開く。ブレンダンの勘はなかなか悪くない方だ。

「タツミさーん?ブレンダンさーん?どうかされたんですかー?」

向こうで、突然足を止めた俺たちを訝しがるように、カノンが声を張り上げている。

「…………つってもなぁ。」

俺だって、気になりはするが、ただの一介の神機使いが、好奇心と憶測だけでフェンリルのお偉いさんのやることに首を突っ込むわけにも行かない。
急かすようにこちらを呼ぶカノンに返事をしながら、ブレンダンに振り払うよう促す。

彼も、少し後ろ髪を引かれる思いであるようだが、ゆっくりと踵を返し、俺の隣を歩き始めた。

その時。

何かが倒れたような、割れたような、耳障りな甲高い音が耳をつんざいた。音の発生源は間違いなく、先程まで二人揃って熱視線を注いでいた孤児院からだ。

「見てくる。」

返事なんて求めていない。ただただこちらに伝えるためだけに端的にそう言ったブレンダンは、一瞬こちらに視線を向けたかと思えば、瞬間、手に提げていた神機の入ったケースを地面に放り捨て、脱兎のごとく走り出した。

「あっ!おいブレ公!」

あいつ……いい理由を見つけたとばかりに走り出したな。
なにかと冷静に分析している姿はよく見るが、こんなに何かに執着するのは、長い付き合いだが初めてかもしれない。

「ん?」

走っていったブレンダンの背を見送っていると、サッと俺の頭上に一つの影が差した。
無意識に降り仰げば、真っ黒な髪を揺らした一人の少女(と言うには少しだけ年を重ねている気がする。カノンと同い年くらいか?)が空を飛んでいた。
そう、飛んでいる。本当にそんなふうに見えた。まるで彼女に重力なんて感じない。
そいつは、ひらりひらりと、居住区のトタン屋根を駆け抜け、軽やかにその孤児院の前で着地した。

「なんだ……ありゃあ……」

「タツミさん?ブレンダンさんは……それにさっきの人……」

驚いたようにこちらへ走ってくるカノン。わりぃな、カノン。俺も、気になってしゃーねーんだわ。
自分自身、元来探究心や興味心というものは、人並もしくはそれ以下であると自負してきたが、あんな芸当見せられて、しかも孤児院の関係者と来りゃあ、それこそじっとしてはいられない。

「カノン、俺とブレ公の神機持って先にアナグラに戻っといてくれ。」

ジープの運転手を待たせるのは悪いからな。と、早口に告げると、俺もブレンダンに習って、神機のケースを地面に放り置いた。

「えっ?あっ!ちょっと、タツミさーん!?どういうことですかー!?」

背中にカノンの悲痛な声が投げかけられたが、気にしていられない。
悪いな、カノン。今日の昼飯、奢ってやっから。






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