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第1話 初頁



『かつて繁栄、栄華をを極め、独善の限りを尽くした人類は、ある時、神の裁きを受けることとなった。

人類の力ではどうすることも出来ない、強大な力が現れたからだ。
抵抗することも出来ぬまま、人類は衰退の一途を辿った。
旧時代の遺産の力を未だ信じて、その身を、大地を犠牲に奴らを焼き払おうとした者達も居た。
しかし、奴らにはなにも、そう、なにも効きはしなかった。

このまま、人類は滅亡させられるのだろう。アラガミと呼ばれる、神の怒りの象徴たちにその命を貪られることによって。
まるで、今まで自分たちが、他の生物を貪ってのうのうと生きて来ていたように。


しかし、人類の発展と悪あがきというものは、神の想像すら超えたらしい。
いや、窮地に立たされているところを見るには、未だこれは神の裁きの範疇なのか。

人類は神に定められた滅亡の時を撤廃するために、神を喰らうことを思いついたのだった。』





「ねぇ、ユリ姉。これなんて読むの。」

「ん?どれだ?」

ここは、外部居住区にある孤児院。
『神谷院』と呼ばれる。
こんな時代、孤児というものはあぶれるほどに居るもので。そんな子らを、出来うる限り引き受けて、世話をしているのがここ、という訳だ。

私は、ここで暮らし始めてもう十八年になる。この院では一番の古参のうちの一人だ。

「これは『はんちゅう』だな。」

「どういう意味なの?」

「部類、とか分類とかそういう意味だったかな。辞書あっただろ。自分で調べてみろ。」

はーい。と小気味いい返事を返しながら、この孤児院ではそこそこ年下の『範疇』の少女が、部屋の隅の本棚へパタパタと駆けて行った。
この子はなかなかに物覚えがいい。読み書きも年相応には出来ているし。

山のように積み上げられた洗濯物たちをより分けながら、少し微笑む。
しかし、文字の勉強のために読む本が、これ、とはなぁ……。
開きっぱなしにされたページを覗けば、そこにはいかに人類というものが分不相応な生き物であるかということがツラツラと述べてあった。
もう少し、ライトなテーマの本は無いものか。

少し苦笑いを浮かべて、思案を巡らせてみるが、そう言えば先日、彼女が院にある本はほとんど読み切ってしまったと、少し退屈そうに漏らしていたことを思い出した。

「新しいもの、なぁ……。」

買うような余裕があるわけがない。本なんてものは、高級品だ。
食料品、衣料品、その他様々なものが配給制で賄われているこの社会で、私達のような孤児が、贅沢を言えるような世の中ではないのだ。

今、院にある本も、殆どは貰い物や、院長先生の私物、若しくはゴミの山から拾ってきたものばかりなのだ。

彼女には我慢してもらう他ない。そう、少し申し訳なく思った時、けたたましく部屋の扉が開かれた。

「ユリ姉っ!!」

「お姉ちゃん!」

息をせききって、転がり込むように入ってきたのは、孤児院の子供たち。切迫した様子で私の名前を呼ぶ彼らは、こちらが気の毒になるほどに顔色が真っ青で、息も上がっている。

「どうした、お前ら。」

いつもの悪ふざけにしては、様子がおかしい。荒い息に、うまく言葉が繋げないのか、もどかしいように床のカーペットに爪を立てる彼らの背を撫でてやる。

「落ち着け。焦らなくていい。」

務めて穏やかな声色を投げかける。
すると、ゆっくりと落ち着き始めたのか、じわじわ顔に血の気が戻ってきた。
もう、大丈夫か。しかし、こんなに慌てて来るなんて、一体何があったんだ?

事の次第が気になるが、急かすわけにも行かず、ゆっくりと背を撫でる。

「ユリ姉!大変なんだ!」

ゴクリと一つ唾を飲み込み、早口で捲し立てる彼ら。
本当に一体何があったというのだろう。もしアラガミが、防護壁を破って侵入してきたのなら、もっと院の外は騒がしいはずだ。
外の様子は、耳をそばだてる限りでは、大した変化はないように思える。

「フェンリルの!フェンリルの人が来た!」

「今、院長先生が話してるの!」

「何?」

焦りきっている彼らからは、短文短文でしか情報を聞き取れないが、それでも充分だ。
フェンリルの役人さんが、こんな外部居住区の孤児院に来る理由は幾つかある。

保護した孤児の受け入れ要請。
そして、お偉いさんの趣味で、金でやり取りする子供を安く買うため。(こういう奴らはフェンリルだと、表立っては言ってこないが。)

だが今回のヤツらの訪問には、少し思い当たる節がある。

「院長先生は今どこに?」

「教会のとこ!」

「今は舞姉も、他の兄ちゃん達も居ないし……」

そうだった。
こういうことに敏感に反応して、さっさと追い返してしまう私の家族たちは、今出ているんだった。動けるものは、この時間、ほとんど出払ってしまっていることが多い。後に残るのは、私のように動けないものや、まだまだ幼い彼らのような子達だ。
私が行かなくては。

「みんなは、ここにいろ。いいな。」

この事態を知らせてくれた、今のメンバーでは一番の年長者である彼に、他の子らの面倒を頼む。
呼吸は落ち着いているが、未だ青い顔をしている彼の頭を、もう一度撫で上げて、その部屋をあとにした。





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