何故、自分たちを助けたのか。
彼女はそう問うてきた。
見返りも求めず、人を助けるということは、意図せずにも不明朗なことであると。
そう言われて、なぜ俺が今ここに立っているのか。それを考えてみた。
あの男達二人の後ろ姿を見た時に、微かだったものの嫌な予感がしたのは確かだ。一瞬、その違和感を追求することは諦めかけたが、幸運にも追求の理由付けを得ることが出来た。
あのタイミングはまさに、神の導きとしか思えないな。
そして、教会に飛び込んで、真っ先に目に入ってきた光景。
額から血を流して、背後に横たわる男性を守るために、その両の手を広げ庇っていた、健気とも取れる、しかし強く清廉な彼女の姿だった。
だがその表情に絶望の色はあれど、恐怖は浮かんでおらず、ただ純直に大切なものを守りたいと、彼女のその気持ちだけが伝わってきた。
明確に理由を指定することは出来ないが、いや、理由付けなんてそれこそ必要ないのかもしれない。俺はゴッドイーターであり、防衛班。人を守ることが仕事であり、責務だ。彼女に抱いたこの感情も、有事に居住区の住民を守らなくてはと思う、その感情と同列のものなのだろう。
兎にも角にも、俺はその彼女の表情を見た瞬間に、この人を守らなくては、と、そう痛烈に思った。
「ブレ公?なーに考え込んでんだ?」
ひょっこりと、隣から同僚が顔を覗かせながら問うてくる。
俺はそんなに気難しそうな顔をしていたか?
「いや、さっきの教会のことをな。」
「なんだぁ?お前まさか、あの子らのどっちかに惚れたとか言い出すんじゃねぇだろうな?」
心の底から楽しそうに、下世話な話をしてくるものだ。お前は、あのオペレーターを本当に落としたいなら、その癖を改めた方がいいと思うぞ。
「……冗談だっつーの!そんな顔で見んじゃねーよ!!」
心底呆れたように見つめてやれば、奴は
俺の肩をバシバシと叩きながら、可笑しそうに腹を抱えている。
タツミがあのオペレーターと食事に行くのは、まだまだ先になりそうだな。
「状況が状況だったからか、まだ彼女の初めて見た表情が脳裏に焼き付いて離れなくてな。」
膝の中で組み合わせた手を見つめ、再びまぶたの裏に浮かんでくる彼女の表情を反芻する。血を流しながらも高潔な、そう、まるで傷ついた一匹の狼のような彼女のあの姿を。
「……は?……え?おま、それこそ……」
笑いを収めようとしていたタツミは、俺のこの発言に一瞬怪訝そうな顔をしたあと、驚いたような素っ頓狂な声を上げた。
不思議に思って同僚の方を振り向けば、なにかぶつぶつと言いながら考え込んでいる姿が目に映る。
「タツミ?」
その同僚の、普段はあまり見ない真剣な表情に、少し物珍しさを感じ、声をかければ、本人はハッとしたようにこちらを振り向き、またいつもと同じ、爽快な笑みを浮かべた。
「いやー、まさかブレンダンに限って、んなこたねぇよな!何でもねぇよ!」
「……そうか?」
「おう!まぁ、また機会があれば、あの二人に会うこともあんだろ。元気にやってるといいな!」
確かに言われてみれば、こんな狭いコロニーの中で生活しているんだ。
また、会うこともあるかもしれない。
その時は、もっと彼女の別な表情が見れるといい。
「そうだな。」
あぁ、そう言えば、彼女は随分と綺麗な煉瓦色の髪をしていた。
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