恋連鎖 | ナノ
そんな感賞に浸っていたら、銀八先生がコツンとあたしの頭を叩いて「帰ーるぞ」と言った。
「じゃ、高杉ー邪魔したな。今度はお前のいないところでヤるよ」
「片仮名にすんな」
「え、……一緒にですか?」
「駄目? 俺もうこのまま直帰なんだけど…。」
「……。
あ、高杉先生! さようなら」
「おぅ」
保健室の扉をゆっくり閉めて、あたしと銀八先生は誰もいない廊下に出た。
「……それで……その」
「んじゃ帰っか。忘れ物はねぇな?」
「はい…」
先生はあたしの返事を聞く前にさっさと歩き出した。
けれどもあたしはというと、ちょっと混乱したままな訳で……
「あれ、結ちゃんー?」
「はっはい、すみません!!」
しばらく経っても歩かなかったあたしの方を振り返って手招きをする。
そんな先生の仕草に『可愛い』と考えつつも、あたしはその人の隣へ走っていった。
タッタッ……
人口密度の少ない学校に、自分の足音が響く。…何か変なの。
「お待たせしました…」
「いいって。ゆっくり行こうぜ? 俺も今日は疲れたわ…」
「…なのに襲おうとしましたよね」
「それとこれは別」
「……」
全く…。
この人は大人なのか子供なのか…。
それとも、3年Z組のみんなと一緒に居すぎたせいで影響されたとか?
とりあえず、普通の大人とは一部違った大人だ。
―どっちかっつーと子供に近いけど…うん、そんなところも、魅力だったりするのかもしれない。
「結」
「な、何ですか?先生」
「今は先生じゃなくて“銀ちゃん”ね」
ちょっとだけ顔を赤くして先生…否、銀ちゃんは訂正する。
あたしもドキンッと胸がなってしまえば「ごめんなさい……銀ちゃん」とドキドキする胸を押さえつつも、声が裏返らないように言い直した。
「で、何ですか?」
「……今から俺んち来ねェ?」
「!?」
「…あれ?」
硬直。
結はその場から一歩も動かない。
「おーい…」
さすがの銀八でも、そんな台詞を言った後に間が空いてしまうと恥ずかしくなるわけで……
「返事しないと連れて帰んぞ」
と、ちょっと大人気ない事を言う。
それにハッと気づいたのか、
「………頑張ります…っ」
と結は赤面しつつ、一生懸命声を絞り出して返事をする。
―――いや、頑張るって何をだ?
「いや、あの、頑張るっていうか…」
一人でノリ突っ込みをした後、続けてその言葉を訂正するように言う。しかし、銀八はその慌てぶりに何を察したか、ニヤーっと厭らしい笑みを浮かべて続けた。
「あーいいよ。頑張るってあれだよね。頑張って何回もヤるって事だよね」
「!? せ、先生!!」
何かテンション上がってませんか?妙に嬉しそうな顔ですよ。
「だから銀ちゃんだって。たく、そんなんじゃ処女じゃないのをいい事に何度も突くよ」
「訴えますよ」
「あ、ごめん嘘」
「いや……――――――あれ…?」
―――……?
…先せ、…銀ちゃんは、さっきから段々テンションを上げているわけだから何の不自然もないんだけど(というか、ちょっとくらい自重してください。恥ずかしいです)
何で……
「あの、銀ちゃん。」
「ん?」
「何であたしが処女じゃないって分かったの?」
いや、実際処女なのかそうじゃないのかっていうのは、あたし自身も知らないんだけど…。さらりと見知らぬ事実を上げた銀ちゃんに対して、純粋に質問を投げかけた。
「何か…隠してますか?」
少しだけ、どくんどくんと嫌な心音が鼓膜へと伝わる。深く考えれば深く考えるほど、おかしい。
いや待って、もしかしたら、銀ちゃんは今まであたしが誰かと付き合ってて、もうヤっちゃってるだろどうせーみたいなノリで言ったのかもしれない。
…むしろ、それならいい。
けれど、こうして質問を投げかけた後、銀ちゃんは困ったように目を逸らしてしまったのだからますます分からなくなってしまった。