恋連鎖 | ナノ
『初めて会ったときから……』
結局何であぁ言ったのかは分からないけれども、先生は確かにそう言った。
―そういえば、あたしはいつ先生を好きになったんだっけ?
先生の事考えすぎたら、いつかそういう事を忘れちゃうのかな。
でも憶えてる。
国語資料室で崩れてきた本の山から守ってくれた時から。
あれはすごくかっこよかったな…。一目惚れって言うんだろうね、こういうのを。
そして先生が意識の戻っていないあたしに言った「キス」について。
あれは、今でも鮮明に憶えている。
いつも授業中に舐めているレロレロキャンディーのせいかあの時のキスはすごく甘かった。
でも、あたしは誰も見ていないところでこっそり煙草を吸っているのも知ってる。
…なんて。
思えば、最近こうして近づいた事は無かったな、と思う。
だからこうしておんぶしてもらっているのはすごく嬉しい。
授業している先生の姿を見ているのもいいけれど、やっぱりこうして近くにいるのが一番幸せだ。
…こうやって考えるのって、「好き」だからなんだよね。
憶えていないことはたくさんあるけど、こういった感情については何となく感じ取れる。
先生、好き。
今は心から溢れ出しそうなくらい……大好き。
「んっ………先……生……ぇ」
「何?」
―――!!?
勢いよく目を開けると、いつもより優しく微笑む先生といつもより白い天井が目に入った。
「えっあっあれ? お…起きてる……?」
「何、先生の夢でも見てくれてたの? 嬉しいねぇ」
ニヤニヤと怪しい笑みを浮かべ、楽しそうに言う銀八先生。
「ちっ…違いまっ!!……す」
いや、本当は違くないんですけど。
思わず意地を張ってしまうのが人間というものだ。
「ぁ…―――――――先生」
違うと主張したあと、ふと先ほどの先生の独り言を思い出す。
「ん―?」
―――そっか、保健室に連れてきてくれたんだ…。今日は高杉先生いないのかな?
「こ…この前の…キ、キスの事のなんです…けど」
ガタンッ!!!
「……あれ、先生……大丈夫ですか」
「いや、ってか…いや……何でいきなり…」
独り言が事実になったのだから驚いて当然だろう。
先生は不意打ちを受けた衝撃のせいで椅子から落ちた。
「いっ今までこうやって二人きりで話す機会がなかったから、話せなかっただけで…そのぉ…」
自分から言い出してあれだが、今、ものすごく恥ずかしいです。
「私…」
あたしはしどろもどろになりながらも言葉を紡ぐ。
「別に…嫌じゃありませんでした。
あのっ、その……驚いてて、正直憶えていないっていうのも3分の1くらいあるんですけど、私先生の事嫌いじゃないですし
……むしろ、」
好き、の二文字が出てこない。
しばらく口ごもっていると、先生はフッと笑ってあたしを抱きしめた。
……え、あれ?
『抱きしめられた』……!!!?
「あの、え? 先生??」
目の前がグルグルして体もなんだか熱い。
すると先生は少しだけあたしを離して、今度は耳元に唇を近づけると
「ありがと」
と囁いた。
その耳元にかかった熱い息のせいで、また倒れこみそうになる。
でもこれは、告白してOKって返事だったって事で、いいのかな……?