恋連鎖 | ナノ

10時ごろになって簡素な部屋が出来上がる。
ふぅとため息をついて、次にあたしは行かなきゃいけないところの地図を確認した。


『銀魂高校』

そこは、母の旧友の旧友(意外と遠い関係だなぁ)が理事長として経営している学校だ。

ここからは少しだけかかる。ちゃんと時間を測っていかないと登校初日に遅刻…なんていう漫画みたいなパターンは避けなければ。

元々学校には行く予定で準備をしてきたから着替えも無しにそのまま家を出た。
朝とは違う空の青さに、春だねーなんて心を躍らせて鍵をしめ、

「そういやお隣さんとかに挨拶に行かなきゃ…駄目だよね、やっぱり」

と、ふと左隣の表札を見た(角部屋だから右はいないのだ)

ふむ、桂さん。とおっしゃるのか。

「何が良いかな…昨日捨てようと思って捨てられなかったファミコンでいいかな」

いやいや、さすがにそれはないか。




***






学校の敷地は案外広めで、ありきたりな高校の校舎なのだけれども、どうやら向こうの方には桜の木だとか渡り廊下だとか…中庭何かがあるのかもしれない。そしてその向こうに広い校庭でもあるのかな。

「関係者以外立ち入り禁止」の張り紙を見ると、今から関係者になるんです、と誰もいないことをいい事に、一人で呟いてクスッと笑う。

とりあえず、端っこの方の下駄箱を使わせてもらって自前のスリッパに履き替えると、事務室の方で校長室を聞きに行った。
途中中庭があるから、そこを目印にまっすぐいってそれから……うーんなんとも複雑な校舎だなあこれは。



誰もいない昼間の校舎って新鮮だ。
そもそも、学校生活の事なんてきれいさっぱり忘れてしまっているんだけれども、それなりに学校生活を送ってきた証拠だろう。はじめて小学校を目にした子供のような感覚じゃなくて、単に誰もいない事を珍しがっている。

見るからに新品でテンションがあがる。
汚いより綺麗な方がいいに決まってる。ここで1年間過ごせるのだから文句は無しだ。(ちょっと複雑な内装なのは目をつむるとして…うん、すぐ慣れるよ)


しばらく観察しながら歩いていき、途中美術室やPC室など、場所をインプットしていった。
すると目の前には綺麗に太陽が差し込んでいる中庭があり、見つけると同時に「おぉー」と感嘆の声を上げる。

なんというか、広いのだ。1クラスくらいはここで何かしてもいいんじゃないか、ってくらいに。
いい感じに植物も育っていて黄緑色に光って綺麗だ。

そう感心していた時だ。もぞっと何かが動く音がした。葉っぱがこすれたのだ。え、なんで?だって今ここには誰もいないはず…いや、先生がいるだろう。でも何故中庭に。

ビクッとしてしばらく考えた後、スリッパを脱ぎ、ゆっくり音のした方に歩いていく。
石の上には砂が付いてるからあとではらっとかないと。


「…でか」

…くて、白いなにかモフモフしたものが大きく上下に動いている。…寝てる?え、だってここ校舎だよね、なんで動物が紛れ込んでるわけ?迷い込んできちゃったのかな?…いやいや、それでもこの大きさはないでしょ。


「……」

ゆっくりと足音を立てないようにまわりこんで行くと、本当にその動物はでかくて…白いライオン?と思ったら顔を見てみるとこれまた愛らしい犬だった。
ピョンと耳が立ち大きな前足を顔の下に敷いてスヤスヤと寝息を立てているのだ。

「可愛い―――…」

自然と顔が綻ぶのが分かる。ちょっとだけならいいよね?ということで、しゃがんで頭を撫でる。うわ、ふわふわだぁ―――

「へへ…」
「…?」

―――!!

パチリ と音を立てるように大きな目が開いた。まずい!
こちらをじっと見据えて…大きな白犬とあたしはしばらくお互い見つめあった。

「……は、はじめまして〜………」
「……」
「…………きょ、今日から銀魂高校の生徒になります……園江結です、よろしくお願い…します」
「ワン!」
「!!」

起きな鳴き声にびっくりして腰を抜かす。
するとのそっと白犬は起き上がって、のびーっと前足を伸ばし、またあたしを見た。

のっそのっそと近づいてくる様から、あたしは今ライオンを目の前にしたか弱い子ジャッカルになってしまってるんだろう…と怯える。
けれど、白犬はあたしのほっぺにスリスリと顔を近づけてきた。柔らかい毛並みに顔が埋まって暖かい。そして獣らしい匂い。あれ、意外といい香り……

「ふふふっくすぐったいぃー」
「ワン!」
「あ、でも首輪ついてるってことは…君もしかしてここで飼われてるのかな」
「ワン!」
「っていうか人の言葉わかるんだ…すげー」

白犬は尻尾をブンブン振って、あたしを押し倒さない程度にすり寄ってくる。
段々と愛らしさを感じ取って幸せな気持ちになってきた。あーこの学校来てよかったぁー最高ー………って、こんなことしてる場合ではないのでは!?

「ごめんなさい!あたし校長室に行かないと…!」

白犬はあたしの声を聞くとスッと身を引いた。…頭いいね。
いい子いい子と撫でれば、「またね」と挨拶をした。白犬はまたワン!と大きな鳴き声で返してくれる。砂を払ってスリッパを履き直せば、さっき事務室の方に聞いた通りに急いで進んで行った。





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