恋連鎖 | ナノ


うーん…困ったなぁ…あたし数学教師じゃないんだけど……

けれど、頼まれたものはやるしかない。友達だもの、神楽ちゃんが困っているのならあたしは助けてあげたいし、何よりも…数学がこの年でそこまでできないのは、いくらなんでも放っておけない!

「それでもいいよ!頑張ろうね神楽ちゃん!!」
「おう!結のお弁当むっさうまいアル!! 明日は私の分も作ってくるヨロシ」
「って、ちょっとオオオオオ!!!」

いつの間にかあたしのお弁当箱は神楽ちゃんの手中に。
そこまで長く悩んでいたわけじゃないのに、神楽ちゃんはすでに平らげてしまっていた。なんでそんな食べるの早いの、謎だわこの子…!

「あーあ」
「園江、金持ってたら食堂行って来い。まだ何か売ってるだろ」

沖田君の嬉しそうな声と、土方君の優しい助言に、二人の性格がよーく分かった!
土方君ありがとう!と言って急いで立ちあがる。



「あ、結さんも食堂に行くんですか?良かったら僕ら案内しますよ」

教室の廊下で眼鏡をかけた男子生徒に声をかけられる。
地味だ。

「なんか失礼なこと思いました?」
「ええ!?」

「こら新八君、結ちゃんを困らせちゃだめだろう」

新八君、と呼ばれた男の子は「別にそう言うわけじゃ…!」とブンブン首を振って否定する。後ろから現れたのは九兵衛さんで、「僕も一緒に行っていいかい?」と誘われた。

教室では神楽ちゃんがあの3人相手に…あ、4人だ、弁当を取り合ったりと合戦状態だった。
少しの間なら放っておいても大丈夫だろうと思って、あたしは誘いを受けた。

「新八君って妙ちゃんの弟なんだ。」
「そうです、で、九兵衛さんは姉上の幼馴染なんですよ」
「へー。九兵衛さんと妙ちゃんって仲良さそうだもんね」
「……九…ちゃん、でいいよ。僕も結ちゃんって呼んでるし」

顔を俯かせて呟く彼女にまたトキメくと、あたしは「九ちゃん」と呼ぶ事を決意し
「わかった!」
と、力強く返事をした。

「それじゃあ行きましょうか。うちの学校、焼きそばパンが美味しいんですよ」
「へー」








「ありゃりゃ…結、行っちゃった」
 
「総悟、やっぱお前アイツの事気にいったんだろ。あんまイジメてやんなよ」

「余計なお世話でさァ」

「……」

「ぎゃあああああ俺のアンパンンンンン!!!!」
「俺のバナナがあああああああああああ!!!」

「近藤さん、その言い方卑猥だから止めてくれ」




***






それから放課後。

さすが転校初日。色々と濃かった。それでいて楽しかったからとても充実した気持ちだ。

始業式の後に先生が言っていた事を思い出し、ゆっくりと荷物を整理しながら後で国語資料室に行かなくちゃ、と思う。



ゆったりと帰る準備をしていたせいだろうか、今教室には誰もなくて、夕日に近いオレンジの光が教室を照らしていた。

ただ帰るという行為をするにも、どうしてこう…寂しいんだろう。


妙ちゃんは部活、神楽ちゃんは何かお父さんに送る手紙がなんたらって言ってたし、九ちゃんさんはこれまた家の事がうんたら…って言ってたし。
他の人たちもバイトや部活で忙しいようだった。
それに、3年にもなれば受験も影響してくる。勉強にはげまなくちゃいけない。だから忙しくて当たり前。

…その分自分は「一緒に帰る人がいない」って事で寂しがっていてどうする! あたしは中学生かっての。


とりあえず荷物を持って、教室を出た。
階段を下りたあたりで、「そういえば国語資料室ってどこだっけ」と大事なことに気付き、昨日ハタ校長にもらった地図が教室にある事を思い出し、方向を変えてはまた歩き出す。
Z組の教室もまた変な所にあるせいで階段の上り下りもきつくヘトヘトだ。

ガラッと扉を開く。




「結じゃねェか」

「え?」



視線を上げると自分の後ろの席に座っている…

「沖田君、さっきまでいなかったのに」

オレンジかかっている教室と、その中に、大きく白いスポーツバッグを肩にかけては、自分の机の上で座っていた沖田君とのマッチ具合はなんとも風流だ。


ふと単純に「かっこいい」と思う。


「教科書取りに行くんだろィ?さっき銀八が、まだ来ねェから見つけたら呼んでこいって言ってて探してたんでさァ」
「あちゃー…今から行くところだったの、ごめんね、ありがとう」
「いえいえ」


沖田君のいる所へ寄り、自分の机の中をあさる。
「あったあった」と銀魂高校の地図を見つけて嬉しくなっていたら、クスッと沖田君が綺麗に笑っていた。


「? どうしたの沖田君」

「いや何でもねェよ」


一つ一つの仕草がいちいち「イケメン」というやつなのだ。
ドキドキしてしまう。教室に二人きりってなんだか青春みたい…なんて馬鹿な事を考えてまた無駄に心臓の鼓動が早まった。

―――時間ないから急がないと…!


「そ、れじゃあ、あたしは国語資料室寄って帰るんで。またあし…」
「待ちなせェ」


隣をすり抜けようと思ったら、地図を持った腕を掴まれて後ろに後ずさってしまう。

また正面を向く形になると、沖田君は「誰かと帰る予定、ありやすかィ?」と尋ねてきた。


「いや、無いよ」

「じゃあ一緒に帰りやせんか?」

「へ? で、でも…あたし国語資料室、よ、寄るし…」


突然どうしたというのだ沖田君。そんな真剣な眼差しを向けないでほしい。
…胸がドクンって鳴る。





「いい。お前の事待ってる」





ふっと細めた彼の瞳が優しくあたしを捉えた。
なんだか言葉の裏で、あたしを思ってくれているような…そんな雰囲気を勝手に感じ取ってしまって一人で頭の中は大パニック状態だ。

「……―…え…」

って、こんなことしか言葉が出てこない。


「じゃ、待ってるから早く来いよ。」

沖田君はパッと腕を離してそう言った。


大きく手を振ってくれたから、小さく手を振り返す。
いつの間にか沖田君は走って下駄箱へと向かって言ったけれど、なんだかあたしには違和感と言うかもどかしさが心に残る。

さっき跳ねた心臓は…青春独特な感じの…そう、それこそ恋愛感情に近い心臓の動きだった。
自分の胸に手を当てて少し鼓動を確かめる。いささかいつもよりも早い気がした。


族に言う…一目ぼれ…いやいやそれは違う!シチュエーションに負けてしまっただけなんだろうな多分。


考え事を振り払うかのように、あたしは急いで先生のいる国語資料室に向かった。






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