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あれから6年。
無事に双子を出産した臨也は新宿で暮らしている。
池袋とはそう離れていないが名を伏せ、極力外出せずに生活していたので静雄に見つかることは無かった。

「津軽、デリック、準備できた?」
今年から小学校へ通い始めた静雄にそっくりの息子を、臨也は溺愛していた。
「うん!いざやは?」
「俺もできたよ」
元気よく答えたデリックのジャケットの襟を直しながら臨也は微笑んで頬にキスをした。それを見た津軽が臨也のシャツの裾を引く。
「ふふ・・・ごめんね、津軽。おいで」
手を伸ばすと胸元に飛び込んできた津軽を抱き締めて同じように口付けた。
「さ!せっかくのピクニック、遅れちゃうから行こう」
立ち上がって三人仲良く手を繋ぐ。
臨也は外に出ないで過ごす事に不自由は無い。だが遊び盛りの子供たちをマンションに閉じこめるのは胸が痛む。この子達は普通に、幸せに育って欲しい。それだけが臨也の願いだ。そして月に1回、都心から離れた公園へ遊びに行くのが唯一の楽しみとなった。
早起きして弁当を作り、電車で郊外へ向かう。津軽とデリックが駆け回る姿を写真に収め、お昼には3人で芝生の上でランチ。それが臨也の幸せだ。


「デリがいない」
食後、二人でトイレに行ったはずが津軽だけ帰ってきた。
「はぐれたの?」
「わかんない。おトイレでたらいなくて・・」
泣き出しそうな津軽の手を取り、立ち上がる。
「もう、デリはいけない子だね。一緒に探そ」
柔らかい笑顔に津軽も落ち着いて、こくんと頷いた。

公園内を1周しても見当たらない。ますます不安に泣きそうな津軽の背中を臨也が撫でる。
「もしかしたら先に戻ってるかもしれないから、1回行ってみようか?」
「いざやー」
そう言った矢先、後ろからデリックの声がした。
「デリック!!」
元気な声に振り返ると、静雄に抱き上げられたデリックがいた。

「シ、ズちゃ・・ん」
口が渇いて声が喉に貼り付く。
「よぉ。久しぶりだな」
数年ぶりに聞く声が耳から流れ込んで臨也を隅々まで支配した。
呼吸の仕方なんて忘れ、瞼は震え、足は鉛のように重く、体中から汗が噴き出す。視界が渦を巻くように歪んで、暗く暗く深い闇に落ちるように身体が地面に吸い込まれた。

「いざや!」

遠くで聞こえた津軽の声に、臨也は必死に笑顔を作った気がした。

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