テレビや新聞、はたまたネット等で賑わう欄には、このご時世、目に入れたくない残酷な事件ばかりだ。時代が流れていくに連れ、その悍ましい事件の内容も日々進化しているもので、ネット犯罪やSNS等がキッカケで事件へと発展していく事も少なくはない。そう、ここで注目して欲しい事は、SNSやネット、要するに電波に関する箇所である。時代を遡って考えてみれば、かの昔の恋人達は電波に頼らなくとも愛を育む事が可能であったと言うから驚きだ。私にはとても考えられない。いや、ってか無理。じゃなきゃ征ちゃんと連絡取れないし。征ちゃんが今日一日何をしているのか把握出来てないと、落ち着くものも落ち着けなくなる。ましてや携帯を忘れた日には絶望的だ。そんな日は大抵仕事も人間関係も疎かになり、上司や友人からの評価は地に堕ちてしまう。

要するに何が言いたいかというと、この文明開化された今日の日本では、電波で始まり、電波で終わるという事だ。え?分かりずらい?いいじゃん、たまには格好つけさせてよ。普段あんま真面目なキャラじゃないんだからさ。

「おい…意味分かんねぇ事言ってねぇでさっさと行け。てめぇいつまでそこにいんだよ」

「ぶっ…!!いったぁぁぁああー!!」

ぶ、という効果音は決して私が屁をかました音ではない。つーか可憐なナマエさんの体内からそんなお下品な代物は出ない。正解は私と征ちゃんの愛の巣のマンション前にてまるでコソ泥のように地面に座り込む私に、青峰の蹴りが一発クリーンヒットした際に口から出た音である。そして痛い。おいこら野生児。乙女に向かってなんって事すんのよ。こちとらまだ嫁入り前なんだけど!?

「知るかアホ。おら、さっさと行け。てめぇさっきから何分そこで蹲ってんだよ。とっとと覚悟決めろ」

「いだっ…!いいい痛いじゃんかバカ峰!つーかあんたさっき私とバイバイしてなかった!?何でここにいんの!?」

「てめぇが帰る俺を引き止めたんだろうが!何俺が勝手について来た雰囲気になってんだよ!ふざけんな…!」

ベシっ!と後頭部を叩かれて火サス並みの太い声で「う”っ」と、情けないうめき声をあげてしまった。どうやら野生児はこのいたいけな女子に、ご立腹の王様の元へさっさと帰れと言いたいらしい…いや、言いたいっていうかもう既にさっきから何回も言われてるんだけど。

「言っとくけどね!私だって帰りたいんだよ!?そりゃこの世で一番愛してやまない征ちゃんの元に帰れるもんなら帰りたいさ!でもバカ峰よく考えてみて!相手はあの王様よ?神よ?そんなお方がご立腹とくれば、恐すぎて一旦ここで休息してんのも分かるでしょ!?」

「おい。てめぇさっきからサラっと俺の事バカ峰って言ってんだろ…全部気付いてんだからな」

「だから逃げとは分かっていても今ここで心の準備をしてるって訳よ!空気読め!」

「お前がな」

すっかり夜は更けているというのに、マンション前でぎゃあぎゃあと言い争いをしている私たちは恐らく物凄いご近所迷惑だ。が、しかし。どうやっても帰る気がしない。1時間前の意気込んだ私は何処へやら。勿論征ちゃんには会いたいよ?ただでさえタイムリミットは刻々と迫って来てるしね…!でもだからと言って今頃冷徹にブチ切れているであろう征ちゃんと顔を合わすにはさすがの私でも多大なる勇気がいる。だがしかし会いたいものは会いたい。あぁもう、一体私はどうすればいい…

「お前達、そんな所で何をしているんだ」

とか考えてる間に王様優雅にご登場。あぁ美しい…その綺麗なオッドアイに見つめられれば(睨まれてる気もしなくはない)この村娘にとっては眩しすぎる程のオーラで前方がよく確認出来まてん。

「よぉ、赤司。さっさとこの荷物受け取れ。さっきからこいつゴタゴタ小言吐いてうぜぇんだよ」

「………」

まるで生ゴミでも捨てるかのように、青峰は我が首根っこを掴んだままヒョイっと征ちゃんに私を投げつけた。よっ!征ちゃんナイスキャッチ!…ておいこらだから青峰。いい加減にしなさいよあんた。か弱い乙女に何て事してくれんのよ。何回も言うけどこちとらまだ嫁入り前なんだっつの。大事な身体に傷でも出来たらどうしてくれんのさ。

そんな青峰対しての怒りを心の中で盛大に吐きだしつつもチラっと斜め上を見上げてみる。すると黒いオーラを身に纏ってこちらを見下ろすオッドアイと目が合った。ひぃっ…!やめてよ征ちゃん!恐い、恐すぎるからその目…!!


「すまない、迷惑を掛けたね。責任持って今日はお仕置きとさせて貰うよ」

「あぁ、そーしろ。ったく、面倒掛けさせやがって」

「だがその前に…大輝、お前もナマエ同様説教だ。今何時だと思ってる。ご近所の事もよく考えろ」

「おいおい、文句あるならそいつに言えよ。俺はただこいつをここまで送り届けてやっただけだぜ?んじゃまぁー、後は思う存分二人で話し合えよ。じゃあな」

そう言って、青峰は面倒くさそうにポリポリと頭を掻きながら去って行った。そのトレンディ俳優のような去り方に圧倒されたのか、ついうっかり今日の御礼を言うのを忘れてしまった。

うん、何かよく分かんないけど次会った時明一杯伝えよう。「その去り方、何か古いよ」って。

「…随分と遅い帰りだな。そんなに大輝との晩酌は楽しかったのかい」

「え?」

はぁ、と呆れたように溜息を吐く征ちゃんが綺麗すぎて思わずうっとりしてしまう。何でこの人はいつも私の心をときめかせ、突き動かしてやまないんだろう…とか何とかかんとかポエム調で語っていたのがうっかり口に出ていたらしい。「いいから帰るぞ…」と、更に呆れた声で掴まれていた腕をパッと離されてしまった。うーん、何か寂しい。

「ナマエ、余り僕を怒らすな。確かにこの辺りは都心から離れてるし他と比べて治安もいいが、だからと言って安全と決まってる訳じゃない。次からは22時までに帰ってこい」

分かったな、このくそアマ。とでも言いたげな目でギロっと鋭い視線をこちらにくれた征ちゃんに思わず肩が竦む。じゅ、22時までって…そんな高校生じゃあるまいし。まるで彼氏との初デートで予定より帰宅時間が遅れて門限を破り、親にガンガン説教されるJKの気分だ。…いや、でも分かる。私には分かる。征ちゃん!なんだかんだ言って可愛い彼女(注※自分の事)が心配で仕方ないんでしょう?もうっ!素直じゃないんだからっ!

「違う。この残された何日間もの間に、君が余所で失態を犯さないように監視する為に決まっているだろう」

「えっ!私また口に出てた…!?」

「いいから早く中に入れ」

恥ずかしさからか、それを掻き消すようにギャーギャー騒いでいると、チン!とエレベーターの到着音が鳴り、横から征ちゃんの長い腕が伸びてきて軽く背中を押された。若干いつもより力が入っているのは否めないが彼に言われた通り少しよろめきながらも玄関の扉を開ける。てあれ、鍵掛かってないし。あの用心深い征ちゃんが鍵をかけ忘れるなんて珍しいな…

「先にお風呂にすればいい。お湯なら沸かしてあるから」

そう言って、征ちゃんは静かに自室へと戻って行った。パタンと、ドアが閉まると同時に何だか急に寂しく感じて「征ちゃん…」と、縋るようにドアの前で2度小さくノックをしてみる。だが彼の返事はない。もう一度名前を呼んでみたけど、依然として征ちゃんは無言のままだった。

「…心配、かけちゃってごめんね。あとありがとう。…おやすみ」

はぁ、と小さく肩を落としてそのままお風呂場へとゆっくり一歩踏み出す。と同時にガチャ、と背後からドアの開く音がして、微かな希望を胸に抱きつつも恐る恐る振り返った。

「…お風呂、上がったら僕の部屋においで。髪乾かしてあげるから」

それだけ言って征ちゃんは再びドアを閉めた。何だかよく分からないけど分からないなりに理解出来た事がある。それは多分、彼の私に対する怒りボルテージが多少和らいだ、って事だ。何だかんだ付き合いが長い分、征ちゃんの機嫌具合に関しては昔から無駄に自信がある。きっと彼は本気で私の帰りが遅い事を心配してくれたんだと思う。だから慌てて家の鍵を掛ける事も忘れてきちゃったんでしょう?ねぇ、征ちゃん…!

「もーう、だから征ちゃんって好き!そういうツンデレな所、ほんっと溜まんない…!」

その場で頬に手を当てたままジタバタ悶えていれば、ドア越しに「うるさい、さっさと入れ」と言う王様からのご不満を頂いた。はい!言われた通りさっさと入ってきます!そして即座に征ちゃんのお部屋へと直行させて頂きます!

そんなルンルン気分で棚からバスタオルを手にしつつも、洗面所で鏡の中のご機嫌な自分と目が合う。その顔は、昨日あれだけバッサリとお別れ宣言をされた人間の表情とは到底思えない程、見るからに幸せそうな自分が写っていた。

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