「てめぇの頭の中には、女子力っていうものはねぇのか」

「……………」

20数年間生きてきた中で、未だかつてこんなにも腹立たしい男に出会った事はあっただろうか。いいや無い。無いっていうかありえない。ありえないっていうかもはや意味不明。それは正にこんな状況をさすのではなかろうか。

「すいませんねぇ…女子力の欠片もなくって」

「全くだな。せめてパーカーだの何だのそれくらいのもんぐらい着て来い、この干物女」

「おーーい、誰。こんな夜遅くに人の事を呼び出しだ俺様は」

合流して早々、多くの文句を突きつけてくるこの男こそ、ご存知私の隣人でもあり悪魔的存在でもあるトラファルガー・ローだ。急に連絡してきて、光の速さで家に迎えに来たこの男は、あろう事にもマンションの下まで降りて来いと電話越しに命令を下してきたのが今から約20分前の事。それから嫌々ながらもご要望に応え、そしてパジャマ姿で奴の車に乗り込み、助手席に腰を降ろして約数分。今現在、私とこの悪魔は近くの海岸に車を停め、肩を並べて車内からぼんやりと海を眺めている状況である。何故だ…何故なのだ。てかここ最近、怒涛の日々を過ごして来たからぶっちゃけ甘く見ていたが、奴は腐ってもドS。基本的にイライラする諸悪の根源な事に変わりはなかったりする訳で。

「てか、ローさぁ…なんなの、こんな時間に急に呼び出したりして…」

「どうもこうもねぇよ。いちいち理由がなきゃお前を呼び出したら駄目か」

「いや…別に。そ、そういう訳じゃないけど…」

「だったら別にいいだろうが…ゴチャゴチャ文句言ってんじゃねぇよ」

「………………」

………そう。基本的に腹立つ存在に変わりは無い筈なんだけど、面倒な事に私の中で最近その気持ちに少々陰りが見え始めている。原因は分かってる。ただ私が勝手にローに対して意識しまくっているからだ。


『行くな』

『誰にも渡したくねぇ…』


そこまで考えて、脳裏にこの前ローに言われた言葉がポン!と思い浮かんできて、思わず一人そこでワァ!と馬鹿みたいに叫んだ。そんなてんやわんやの私を横目に、隣に座るローの目が「うるせぇ」「何してやがる、てめぇ」と言っている。間違いない、本当に何してんの私…てか、今この状態であの時の事を思い出すとか…な、ないないない…!え、馬鹿?私…自分で自分の緊張を煽ってどうすんの。

「本当、落ち着きがねぇ女だなお前は」

「……うるさい」

「まぁ、だがその反面一緒に居て飽きねぇ存在ではあるな」

「え?」

そこまで口にして、ローは胸元に収めていた煙草を一本取り出し、いつものように気怠そうに口に咥えては小さく笑った。気のせいだろうか、何だかその横顔がいつもより数倍優しく見えたのは。遅い時間帯という事もあり、周りに人は人っ子一人居なくて、そしてまたやけに静かで。隣に座るローの存在がいつも以上に近くに感じてしまう。手を伸ばせばすぐに届いてしまうこの距離とロケーションは、今脳内でよこしまな想いを内に秘めている自分にとって勢いを増すものでしかなく、そしてまたそれ以上に厄介な問題でもあるというのに。

「………ナマエ、」

「………………」

「おい、無視してんじゃねぇ」

「なに…」

反応が鈍い私を追い立てるように、ローはそっと私の頬に手を滑らせて、半ば強引に自分の方へと視線を向けさせた。暗闇の中、遠くに見える月明かりがローの顔を半分だけ照らして、その端正な顔がよく映えるなと素直に思った。そして相変わらず、顔だけは格好良いな…とか、でも本当はそれ以上に中身も格好良いんだよな…とか。互いの視線と視線が交差し合う中、そんな事をぼんやりと考える。

「お前…大丈夫か」

「……っ、え…?」

「この前も言ったが、ここ最近ろくに寝てなかっただろ。顔色が悪ぃ」

「え…そう、かな…」

「あぁ…」

「………………」

「くれぐれも無理だけはするな。心配するだろうが…」

「うん…」

「………………」

まぁ、こんな時間に呼び出した俺が言えた立場じゃねぇが。そう言って頬に触れていた手を離し、そのままポンポンと軽く私の頭を撫でたローが体勢を元に戻して、咥えていた煙草に火を付けた。その一連の流れにぼんやりとした視線を送っていたその途中で、再びローの視線が此方に向き、自分でも分かる程のレベルでドキっとした。………まただ、またこの感じ。もうあれだな…きっと、これ以上は自分で自分を誤魔化しきれないんだろう。

「ロー…、」

「……あ?」

「ロー…」

「…………どうした」

「……………」

意味もなくローの名前を呼ぶ。胸の鼓動はさっきと変わらず馬鹿みたいに早鐘を打っていて、誰かに心臓をキュウっと鷲掴みにされているように苦しくなった。だけど不思議とその苦しさが心地良くて、けれども何処か切なく思えて。気付けば、目の前に居るローの袖をキュっと小さく握り締めて、俯き気味に私はこう言った。

「………ローの、せいでもあるんだからね…」

「……………あ?」

「ここ最近…私が寝不足なの…」

「………………」

「ロ、ローが…っ!あの時、ドキドキするような事…わ、私に言ったりするから…!」

「………………」

「だから…っ…!!」

眠れなかったのもあるんだから。

そう口にしようとして、顔を上げた瞬間目の前に大きな影が差した。そして次に気付いた時には唇に暖かな感触が走り、驚きからか目を丸くしてしまった。瞼を閉じるのも忘れたその状態で、必死に現実を追う。辿り着いたその先で、今自分はローとキスをしているのだと、その事実に気付いた瞬間何故だか涙が溢れた。そして、改めてそこでようやく今まで誤魔化し続けてきた自分の気持ちと向き合う事となった。

「……苦い」

「我慢しろ、これだけは譲れねぇ…」

唇を離した瞬間、はぁ、と互いの吐息が漏れた。後頭部に廻されたローの腕と指の温もりが馬鹿みたいに心地良い。涙目でローを見上げる私に、彼は目を細め、今まで一度だって私に見せた事のないような優しい顔をして穏やかに笑った。

「だがまぁ…確かに今これは必要ねぇな」

もう片方の指で挟んでいた煙草を、ローは最後に口に含み白い煙を吐く。そして灰皿に擦り付けて捨てた。そのまま再び強くて妖美な眼つきをしたローと視線と視線が重なり合う。後頭部に廻された腕の力がぐっと強まり、私達の距離は一気に0と言っても良い程の近さとなった。そのまま腰に腕が廻り、今度はトンと優しく助手席の椅子に寄り掛けさせられる。そうしてまた、当然の様にどちらともなく唇を重ね合った。

「ロー…っ、」

「……………」

キスを繰り返す中、目の前に存在しているローが愛おしく思えて、何度も何度もローの名前を呼んだ。顔を違わせて、瞼を閉じて、後頭部に廻していた腕をスルリと移動させたローの暖かい指がそっと私の頬に触れる。暇を弄ばせていたもう片方の手は、助手席に寄り掛かったままの私の右手を奪い、顔の横で恋人繋ぎをしつつも、まるでお互いの気持ちを確かめあうように何度も何度も強く握り締め合った。

「……ナマエ、口開けろ」

やがてそれだけじゃ物足りないとでも言うように、私の耳元に唇を寄せたローが少しだけ掠れ気味にそう言った。その声が何だか優しくて、でも何処となく儚げで。一瞬空耳でも聞こえたのかと勘違いする程、それはそれは甘ったるい声だった。

「……んっ、」

言われた通りに舌を差し出し、ローからの命令に素直に応えた。そんな私の行動に、やけに切なさそうに眉を寄せたローにものの一瞬で口内を侵食される。頬に添えていた筈の彼の指が私の耳元まで上昇し、その指にゆるゆると優しく撫でられては全身に小さな快感が走る。それに負けじと、目の前に居るローの首に両腕を廻し、擦り寄るようにその身を委ねては、ローから降り注いでくる沢山のキスに応えつつも、それ以上に何度も何度も彼自身にキスを要求した。


『それは、俺の前だけにしろ』


今になって思い返してみれば、既にあの頃から予感はあった。これまでどんな男に耳元で愛を囁かれようが、夜誰に抱かれたとしても、そんな事を言われたが最後。何の躊躇いもなくあっさりと別れを選んで来た。そんな血も涙もないこんな私が、今こうして目の前に存在しているこの男に全てを預けている。そうしてまた馬鹿みたいに涙を溢しながら、こんなにも近くに居るというのに、何かが物足りないともう一人の自分が叫んでいる。そこまで限界が訪れたのなら、それこそ最早手遅れだ。

「……っ……ロー、」

ローが好き。大好き。言葉にしようにも上手く出来ない、この溢れんばかりの気持ちをどうか全て受け止めて。そんな一昔前に出て来そうな恋愛小説のような安っぽい言葉を頭に思い浮かべながら、ローの首に廻した腕の力を強め、願いを込める。そんな中、キスはどんどんと深くなっていくばかりで、今度は違う意味での限界が私に訪れた。ドンドンドン、と少々強めにローの胸に向かってサインを送ってみたものの、どうやら彼はそんなものは始めから無視するつもりだったらしい。空気を読んだであろうローが次に口にした言葉は、「諦めろ」というドS全開な返事だった。





「何かあったのかよい、お前ら」

「……………えっ!?」

「……………」

ローとキスをした次の日。『病院に戻る』と最後に私の身体を抱き締めて、息を吐き出すようにそう告げられた約数時間後の今。マルコの面会に訪れて早々、私は未だかつてない程の勢いできょどりまくっていた。病室に来て早々、検診をしていたローと鉢合わせをしてしまったせいなのか、ぶっちゃけ自分でも引くぐらいに意識をしているのが目に余る程だ。どうやっても変なのは隠せない。因みにその意識させられている原因のローに至っては、流石というべきか冷静というべきなのか。思わず肩の力が抜け落ちてしまうぐらいいつも通りである。………な、何なのこの男…ちょっとは動揺するとか何かないの…!?どんだけ女慣れしてんの!ムカつく…!

「な!…んにもない…よ?」

「そうかい、そりゃ悪かったよい」

「う、うん…」

「……おい」

「!は、はいっ…!」

「そこ、邪魔だ。退け」

「………………」

ベッドの淵に突っ立っていた私を押し退けて、ズカズカと長い足でベッドの頭へと距離を詰め、そして手際よく器具の準備に取り掛かるローに向かってこれでもか!という程ジトっと睨みつけた。…聞いた?聞きましたか、これ。『邪魔だ、退け』だとよ。あんたは一体どこぞの王様だ!?か、可愛くない…!可愛くないよあんた…!

「大分良くなってきたな。このまま行けば来月頭にでも退院出来るだろ」

「そうかい、なら良かったよい。何から何まで世話になって助かったよい、ありがとな」

「はっ…またそれか。お前も大概しつけぇな」

「安心しろ、無事に退院したらもう二度と言わねぇよい」

「言ってろ」

そう言って、楽しそうに互いに憎まれ口を叩きあう二人の様子を眺めていた途中で、はっ!と現実へと意識を取り戻した。た、退院…!?つ、遂にそんな日がやってくるのね…!?

「良かったね…!マルコ…!!本当に良かった…」

「あぁ…ナマエ、お前には一番心配を掛けて悪かったと思ってる。ありがとよい」

「そんなの別に気にしなくていいから…!そっかぁー…退院かぁ…良かった、本当に…」

「………………」

マルコの退院日には、ベタだけど沢山の花束を持って来よう。そんな事を密かに計画していた私を横目に、ローが少しだけ嬉しそうに口角を上げては小さく笑っていた。その横顔を目に入れた瞬間、前回同様ドキっとする。そのまま意味も無くローの顔をじっと見つめていると、見つめすぎていたせいなのか私の視線に気付いたローと目があった。

「………また診察に来る、じゃあな」

「あぁ」

「ナマエ、お前も適度な時間に帰れ。それ以上隈が増えたら増々人相が悪くなるぞ」

「う、うるさいな…!てか、それだけは絶対ローには言われたくない…!」

何とでも言え。最後に意地が悪そうにそんな言葉を残して病室から出て行ったローの後ろ姿を再び目で追う。やがて見えなくなったその光景に一息ついて、ベッドに寄り掛かっているマルコへと視線を戻した。「何か食べる?あ、やっぱり病院って言ったらリンゴとかかな?」とか、ありきたりな事を口にしながらも、ありもしないお見舞い品をキョロキョロと探すフリを続けた。

「………ナマエ、」

「うん?なにー」

「この前、俺が言い掛けてた話の続きだけどよい」

「…………え?」

マルコからのその発言に、思わずピタリとその場で動きを止めた。そしてゆっくりと踵を返し、ベッドに気怠そうに体重を預けているマルコへと視線を移す。少し行儀悪く、そこに膝を立てて座っているマルコをぼんやりとした目線で見つめていれば、「とりあえず、ここに座れよい」と、人差し指で椅子を指差し、そして次にクイクイと指を折り曲げられては隣に来いと呼び寄せられた。

「お前の頭の中を支配してんのは、誰か当ててやるって言った話…覚えてるか」

「………うん」

「その相手、トラファルガーだろい」

「……………」

「やっぱり昨日何かあったか、お前ら二人」

「……………」

まぁ、いちいち聞かなくても見てりゃ分かるけどよい。目を細めて、何処か遠くを見つめて笑うマルコを目の前にして、何て返事を返せば正解なのかと頭をフル回転させた。だけど良い答えは一向に浮かんでは来なくて、どうしたもんかと白旗を振っていたその矢先に、マルコから決定打を突きつけられてしまった。

「惚れてんだろい、あいつに」

「………えっ、」

「まぁ、確かに良い男だよい。トラファルガーは。お前が惹かれるのも無理はねぇ」

「………………」

「良かったな、上手くいったみたいで」

「マルコ…」

口では祝福の言葉を伝えてはくれるものの、マルコの表情が何処か固い。そんな少し寂し気に笑うマルコの横顔が客観的に見ていてとても辛そうで苦しくなった。でもだからといって、何て言ったら気持ちが軽くさせる事が出来るのか全く分からなくて、私はただただそんな自分を抑えつけるかのように、ギュっとその場で拳を握る事しか出来ずにいた。

「ねぇ、マルコ…」

「………なんだよい」

「本当はあの時…もっと違う事を私に伝えてくれようとしてたんじゃないの…?」

「………………」


『そんな事よりお前を今日呼び出したのにはちゃんとした理由があんだよい』


確かに、あの時マルコはそう言った。あの後色々あったせいかすっかり忘れていたけれど、確かにマルコはそう言ったんだ。

「…………なに?あの時私を呼び出した理由って」

「………………」

「ちゃんと言って欲しい…聞くから、最後まで。全部」

「………………」

そこまで言い切っても、マルコは未だにぼんやりと遠くを見つめるだけで何にも返事をしなかった。それでもいつかは応えてくれると信じ、ろくに瞬きをしないままマルコの顔を見つめる。やがてそんな私の視線に気付いたのか、はたまた降参だと諦めてくれたのか、どっちにも取れるかのような深い溜息をマルコはそこに吐き捨て、薄く笑い返しては「なんでもねぇよい」と、いつものように私の頭を撫でた。

「…………なんで、誤魔化そうとするの」

「誤魔化しちゃいねぇよい。本当に何でもねぇだけだ」

「嘘じゃん…絶対そんなの」

「さぁ?どうだろうねい」

「……………」

お前の好きに取れ。そう言って、涙目でマルコを見つめる私に、彼は少しだけ困ったようにして笑った。そしてポンポン、と最後に二度頭を撫で、その心地良い温もりが私の元からゆっくりと離れていく。まるでその行動が今までの関係を清算しようと訴えているように感じて、次に気付いた時には瞳から、自分では拭いきれない程の大量の涙がそこに溢れ落ちた。

「………ナマエ、悪ぃんだけどよい」

「…うん…っ…、」

「今は、一人にしてくれねぇか…」

「わかっ…た…」

それだけを言い残して、病室を去る。だけどドアを完全に閉め終える前に、最後に少しだけそこに振り返った。大きく開け放たれた窓からは、強い強い風が吹き抜け、タイミング良くマルコのベッドに備え付けられているカーテンを揺らしていた。その隙間から見えたのは、膝を立てたそこに頭を伏せ、何かを抱え込むようにして泣いている、マルコの姿があった。


『何で謝るんだよい、別に気にしちゃいねぇよ』


最初に出逢った時の、あの時のマルコの言葉が脳裏に過る。きっと、次に再会した時も、マルコは私にそう言って笑ってくれるんだろう。始めから何も無かったかのように、まるで最初からただの友人であったかのような顔をして。昔から強がりで、ポーカーフェイスの彼にはピッタリの行動なのかもしれないけれど、付き合いが長い分、一度で良いから自分の弱さをさらけ出して欲しかった。


『こいつの友人だよい。…つっても、まぁ何年か前の元彼でもあるけどな』


だけどそれをさせなかったのは私自身だ。そしてまた、あの言葉に全てが集約されていたのも明白だった。最後まで嘘をつき通してくれたマルコの優しさに、より一層胸は苦しくなるばかりで、涙だって馬鹿みたいに溢れ出てくるけど。それでもドアを閉め終えて、深呼吸をし、ぐっと涙を拭っては前を向いて歩いて行く。

「ありがとう、マルコ…」

夕方の面会ラッシュなのか、周囲はガヤガヤと患者や診察者達で溢れ返っていた。その大勢の人混みの中、病院を出て歩道に足並みを揃え「よし、」と一人呟いた。向かう先は最寄りの駅一択。……帰ろう。今日こそ、本当に心から眠れる気がするから。





ピンポーン…

その日の夜、そろそろ寝ようといつものように身支度をしていた時に玄関のチャイムが鳴り響いた。モニター越しに相手を確認すれば、背の高いであろう人物の黒いコートの一部が映っている。勿論、その正体が誰なのかは分かっていた。玄関のドアを開けて、そこに寄り掛かるようにして立っていたのは、他でもないローだったからだ。

「よぉ、今日はちゃんと寝れそうか」

「ロー…なんで…」

姿を確認した瞬間、やっぱり恒例のように胸のドキドキさは増した。そして一気に安心感を覚え、何でか分からないけれどまたしてもちょっと泣きそうになってしまった。そんな私の顔を見かねて、小さく笑ったローはいつものように我が家に上がり込み、そのまま私の腕を引いたまま無言で寝室へと向かう。

「あぁ、流石に当直明けは眠ぃな」

そう言って、羽織っていたコートと帽子を床に脱ぎ捨てて、ベッドに倒れ込むようにして仰向けに寝っ転がるロー。それを部屋の隅っこでぼんやりと見つめていた私に「何してやがる、さっさとこっちに来い」とローが私を呼び寄せた。言われるがまま側に近寄って行くと、待ってましたと言わんばかりに勢いよく腕を引かれて、ローの上に覆いかぶさるようにしてそこに倒れ込む。

「俺は寝る。だからナマエ、お前もさっさと寝ろ」

「…………ロー…」

まるで小さい子供をあやすようにして、ローがポンポンと優しく私の背中を撫でる。布団の隙間に腕を伸ばし、寒いだろうと私を気遣ってくれたローがその上からそっと布団を掛けてくれた。そんな中、ローは引き続き私の身体を強く強く抱き締めてくれている。そのさりげない優しさが無性に泣けてきて、そしてまたドキドキしてしまって。好きだなぁと、しみじみとそんな事を思いながら、その日の夜は二人一緒に眠りについた。

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