「明後日から野外活動?は、なんでまた急に」


朝から優雅に寝坊して、一気にヤル気が削がれた気分に折り合いをつけるように見事午前の授業をサボりあげた私に待ち受けていた速報。それは朝のHRで担任が口にしたという校内行事の伝達だった。…野外活動って。いや待て待て。中坊じゃあるまいし、何で花の高校生にもなってまでそんな野外活動なんぞ受けなきゃならんのだ。空気読めよ教師共。

「何か宮公が提案したらしいよー。最近の若者は精神がたるんでるから一発山登りでもさせたらどうかって」

「くっ…またあいつか」

「でも何か野活って面白そうスよね!俺ナマエっちが作ったカレーとかめっちゃ食べたいし!」

「だよねー!?たまには良いよね!変に授業受けるよりはよっぽど楽だし」

「……黄瀬くん?何故あなたが会話に入ってきてるのかな?」

「なんでって…そんなの決まってるじゃないスか。俺達4人同じ班になったんスよ!」

「………………はぁっ!?」

待ってました!と言わんばかりの満面の笑みで、隣に立つ友人と黄瀬の悪友(当社比)がニコニコとこちらに向かって私の様子を伺ってくる。……し、しまった!何で今日に限ってそんなサクサク班決めなんてするんだよ宮公!いつも常に覇気なんかないくせにどんだけ今回の野活に気合い入ってんの!?なんて、思った時点で既に私は負け組確定だ。世の中弱肉強食程怖いものはない。

「てな訳で、私達のグループは野活でカレーを作ります!食材選びは黄瀬君と私でしてくるから、ナマエは彼と1日のスケジュールを組んでグループ内の調整を宜しくね」

「えっ…ちょっと待ってよ。私とあんた2人で組めば良いじゃん。しかも何かそっちの方がこっちより遥かに楽そ…」

「あ、じゃあ俺がナマエっちと組んでスケジュール組ん」

「気おつけて行ってきてね。ルーは中辛で宜しく」

「ひどっ!即答っスか!?」

ぎゃあぎゃあと喚く我が校の王子をフル無視して、勢いよく黄瀬君の悪友の腕をガシっと掴み資料室へと連行して行く。教室を出る直前、未だこちらに向かって文句…というか嘆きを言い放つ背後からの訴えに思わずはぁ、と溜息が漏れた。そんな私の様子を見かねてか、「ミョウジさんもあいつに懐かれて大変だね」なんて言われてしまう始末。いやだったらあんたらがちゃんと教育してよ、とか心の中で思ったのは彼には内緒だ。






「あーナマエっち、違う違う!野菜はそうじゃなくてこう切るんスよ、貸して」

「あーもーうるさいな。はいはい、じゃあ後は宜しく」

あれからあっという間に時は過ぎて気付けば野活当日。飯盒炊爨と言い名のそれぞれの班が自分達の好きなメニューを選んで各々淡々と手を付ける中、ある一組の班内に約2名の言い争う声が周囲に広がっている。…そう、何を隠そう黄瀬君と私の二人だ。当初の予定通り、私達の班は手分けしてカレーを作っているのだが意外や意外。彼は結構細かい性格らしく、私のやる事なす事にあれやこれやとケチをつけてくる。その反面、友人には優しくやんわりと注意?ぐらいで終わるというのに一体この差はなんだというのか。別に優しさを見せて欲しい訳ではないが余りにも態度が違いすぎてストレスは溜まる一方。……まぁ、かと言ってそれにいちいち反応する自分も大人気ないんだけど。

「へぇー、黄瀬君って料理も出来ちゃうんだね!益々格好いい!益々惚れちゃう!」

とか何とか適当な事言って、いつもより更に2オクターブ程語尾の声が上がっている友人をギロっと睨む。何なんだその無駄な持ち上げようは。……友よ。そいつはな、現在進行系で女教師との禁断の恋をしているんだぞ。そんな王子スマイルを周りに振りまいている癖に中身はゲスいんだぞ。と、無言で訴えてみたがあくまでも心の中だけの話なので当然伝わらない。ほんっと世の中って良いように出来てるわ。

「おーい黄瀬ー!ちょっとこっちも手伝ってくれー!」

「りょーかい!今行くー!」

ちょっとごめんね、そう一言友人に伝えて私の目の前を黄瀬君が風のように横切る。野菜を切る担当は降格となった為、ひたすらジャガイモの皮を器具を使って剥いている私の隣で、「はぁ…やっぱ良いって王子…」と友人が溜息交じりにうっとりと遠くに見える黄瀬君を見つめていた。何か似たような事前にもあったな。デジャブ?

「ねぇ、今日の夜キャンプファイヤーあるじゃん?あの時黄瀬君と二人っきりになりたいからさ、ちょっと協力してよ」

「別に良いけど…大丈夫なのそれ。あいつの取り巻き達に睨まれない?」

「大丈夫大丈夫!余裕でしょ!」

そう言ってケラケラと笑いながら私の肩を叩く友人に呆れつつもふとある一点に視線をやる。するとあの例の女教師が切なそうに黄瀬君を見つめていた。その一連の流れに一瞬自分の中で時が止まったような感覚がし、それと同時にドクン、と胸が波打った。


『………黄瀬君。あ、それにミョウジさんも。二人とも今帰り?』


彼女のその姿を前に脳裏に思い浮かんだのは、先週末遭遇した軽い修羅場シーン。……どう考えてもあれはマズかった。完璧教師の顔じゃなくて女の顔だったもん。当然最近校内に流れてる私と黄瀬君のあの変な噂も彼女の耳に入ってるんだろうし、ぶっちゃけあんなんでも山程周りに女は居るから気が気じゃないんだろうなぁ。……なんて、そんな事思っても私がわざわざ心配する話じゃないんだけど。触らぬ神に祟りなし。明日は我が身とよく言うし、私は応援してるからね!先生!そんな訳の分からんエールをグッと拳を握ったまま心の中で女教師に念を送る私に、

「ナマエっち、ジャガイモ剥きすぎっスよ…誰がそんなに食べるんスか…」

と、いつの間にこっちに戻ってきたのか、メラメラと勝手に熱くなっていた私に的確な突っ込みが飛んできて「ぎゃあ!馬鹿驚かさないでよ!」と反射的に飛び跳ねた。恐るべし黄瀬!し、神出鬼没…!居るなら居るって言ってよね!とか、完璧八つ当たりな発言をする自分はやっぱり何処までもお人好し+間抜けだと思う。

とりあえず、厄介な事に巻き込まれるのだけは御免だ。今後も彼とは深く関わりを持たないように心掛ける事としよう。そう密かに一人心の中で誓った。

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