「ベルフェゴール。よろしく」

なまえの時とは大きく異なり、簡潔な自己紹介だけを述べたベル。クラス内の反応は非常に様々だった。

「昨日ヘリから降りて来たやつじゃん」
「って事は苗字の仲間じゃね」
「外人ぽいしね」
「でもチョーかっこいいんだけど」
「金髪だよ!」
「いちお話しかけてみる?」
「誰いく?」


「ベル」
クラスがざわめく中、澄んだ声が彼に向けられる。
声の発信源、なまえは無表情に自分の隣の席を指差した。


「あいてる」

「Grazie」にっと笑ったベルは何の躊躇いもなく隣に腰かけた。私の隣の席は西崎さんという女子生徒だったが「コイツの隣やだ。気持ち悪い」的な事を言って、窓側の空席に移動したのだ。ナイスタイミング!昨日の放課後、私は密かにそう思った。

「何アイツまじウケんだけど」
「空いてるんじゃなくて誰も座りたくねェんだっつーの」
「気付けよな」

「ししっ、ころしてー」ベルが小声で言った。
私は無表情で前を向いたままやはり小声で答える。

「しかたないって」
「なあなまえ、やっぱやんの?王子やなんだけど」
「しかたないって」
「めんど」
「よろベル」
「ざけんな」
「ベル」

私が下におろしていた左手で拳を作る。口をへの字にしたベルは、やがて諦めたように同じ右手のグーをこつんとぶつけてきた。
任務開始の合図である。


一通り話し終えた教師が「では授業の準備をしておくように」と言って教室を出て行くと、不自然な沈黙が訪れた。しばらくして何人かの生徒がベルの周りにやってきた。

「あの、ベルフェゴール君…?」
「ベルでいいよ」
にっと人懐っこい笑みを浮かべたベルを見て、周りの空気が僅かにやわらぐ。私は机の上の教科書を見つめながらただ黙っていた。


「私達、ベル君に話したい事があって」
「俺に?」
「ああ。お前さ、その、苗字と仲いいのか?」

ベルは一度私を見て、肩をすくめた。


「んー。普通じゃね?俺とこいつイタリアで同じ学校通ってたんだよ」
「そうだったんだぁ」
「そ。んで、あっこの留学制度でこいつが俺よりちょっと早く日本に来たってわけ。まーただのクラスメイトだな」

私の肩を叩くベル。私は無表情のまま頷いた。
目尻で彼らが頷きあうのが分かった。
タイミングを読んだベルが「そんで?」と続きを促す。
一歩前に出てクラスの台詞を代弁した彼の言葉に、今や私達だけでなく教室中の誰もが耳を傾けていた。
「そいつさ…―――」

第二段階・作動

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