「苗字さん、俺が校内案内してあげようか」
「いいです」

「帰り暇?良かったら俺らとどっかいかね?」
「遠慮します」

「苗字さ」
「大丈夫です」
「まだ何も言ってねんだけど!?」
「私この後用事があるので」

じゃ。と片手をあげてクラスを後にする。廊下を歩きながら目線を様々なところへめぐらせて、見つかりにくい盗撮ポイントに目星をつけていく。こことここと、あとあそこ。機器が送られてくるのは二、三日後だからそれまでに色々調べないとね。死角はなるべくなくさなければ。


「…アーン?お前、朝の転校生じゃねぇの」
「跡部」
「露骨に嫌そうな顔しやがって…。お前こんなとこで何してる」
「何って…校内見学?」
「ほう。なら俺がテニスコートに案内してやる」
「いいです。私もう帰るので」
「氷帝は広いからな。迷うなよ。俺に着いて来い」
おっかしーな何でこんなにやりずらいんだろ!この俺様まったく人の話聞かないや!

「テニス、興味ありません」
「そう言うな」

今日は存在のインプットと氷帝学園の空間把握に徹しようと思ってたのに。
これ以上の応戦は無意味と悟った私は軽く溜息を吐いて跡部の横に並んだ。人間諦めは肝心である。

「帰国子女だってな」
「…はい」
「何で日本に戻ってくることになったんだ?」
「父が転勤族でして。その付き添いで」と私はマニュアル通りの返答をつらつらと口にした。

「成程な」
校庭に面した昇降口から外に出ると、遠目に広いテニスコートが見えた。その周りを取り囲む人混みに意識をうつした。それに気付いた跡部はさも当たり前のように説明を始める。

「コートの周りにいるのはギャラリーだ」
ついうっかり素で「は?」と尋ねかけた。ギ、ギャラリー!?あんなにいっぱいいるのが皆!?どうなってるんだ氷帝テニス部。
私が呆気にとられていると、コートの傍の木陰からボトルを手にした背の高い少年がこちらに走ってきた。

「あれ?跡部先輩、今日は生徒会の会議じゃなかったんですか」
「ああ、早めに切り上げて来た」
「…生徒会?」
「俺はこの学園の生徒会長だ。覚えておけ」
「(知ってますー。知らない振りしただけですー)」
「え。先輩、この人は?」
会話の矛先がこちらに向けられる。跡部は私の肩に手を乗せて言った。

「苗字なまえ。新しいマネージャーだ」

身勝手に救われる

「…は?」
(そりゃ、なれたら大分やりやすくはなるけども)

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