「…ええ度胸やん」
ふっと笑った忍足は私の脇を通り過ぎる際「後で覚えとき」と小声で残して戻っていった。

「…今日はもう帰れ」
「え?」
「もう帰れ」
聞き間違いじゃなかったらしい。跡部は忍足の方に視線をやりながらそう言った。
「今よりもっとひどい目に遭うぞ」
――何故だろう。
私はその発言に嫌悪を覚えた。
体中の傷が存在を主張するように、途端に痛み始める。

「…まるで第三者のような物言いですね」

跡部の肩がピクリと揺れた。
「それで 私を守ったつもりですか」
「俺は」
「今も、昨日だって、あなたは部員の暴行を見ているだけで止めようともしなかった。氷帝テニス部が…あなたのテニス部が壊れ始めてるのに、気付いているでしょう。それなのに自分は高みの見物ですか」

イライラを吐き出すように口が止まらない。
こんなの、ただの八つ当たりだ
――跡部は迷ってる。(そんなの知ってる。)私と亜里沙のどちらを信じればいいか分からないのだ。

「全部失ってから気付いたって…遅いんです」
「…お前」
「何を信じるかは自分で決めてください」

小さく早口で言いきって踵を返した。
そんな私の背中を跡部がどんな顔で見つめていたのかなんて、私は知らなかった。
第三者

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