「ごめんねぇ、みんな!明日、亜里沙お休みするねぇ」

部活終了後、亜里沙の口から出た言葉にそれぞれが反応する。
私に殺気を込めた視線をぶつけてくるもの。
あからさまに安堵の表情を浮かべるもの。
私は畳んだタオルを棚に戻しながら亜里沙とレギュラーたちの会話に小耳を立てた。


「大事な商談があるらしくてぇ、亜里沙、パパのお手伝いするんだ!」
「へえ、亜里沙はもうそないな事に関わらしてもろてんねや」
「鳥居財閥は今最も成長中の企業だって聞きましたよ」
「えへへ、でも亜里沙が行ってもあんまりやることないんだけどね」
「んなことねぇよ!お前なら隣にいるだけで十分空気和むって」
「和ませすぎて粗相すんなよ」
「もぉ、しないよ景吾」
「でも…明日亜里沙おらんのやったら俺達暇やな」

忍足がちらりと私の方を見てくる。奥の更衣室から出てきたジローが、荷物を肩にかけながらこちらに向かってきた。

「なまえ〜、帰ろーっ」
「ん、ちょっと待って」
「早くー!あ、俺帰りにマック行きたい!よってEー?」
「はいはい」

そう言えばベル達はどこにいるんだろう。もう帰ったのかな。
私は机の上の部誌などを整えて立てかけてから、戸締りの確認をしに一番奥の更衣室に入った。
「あ」

ジャージのまま更衣室のテーブルに突っ伏しているのは向日だ。
今日の練習はそこまでハードではなかったが、そういえば寝不足だと話しているのを聞いた気がする。向日の肩にはすでに誰かのジャージがかけられていた。
すうすうと寝息を立てている向日を起こさないように忍び足で後ろの窓のカギを閉める。

(…そう言えば、)
向日、恭弥に殴られてたっけ。
ひっくり返った向日の姿を恭弥に担がれながら見た気がする。

そっと手を伸ばしてその後頭部に触れればぽこりと大きなたんこぶができているのが分かった。向日が起きる様子はない。
(よかったね、頭割られなくて。)恭弥ってば手加減ないからさ。
苦笑してその個所を優しく二、三度撫でた。
謝る気はないけど、ちょっと同情するよ。あの時止めてくれようとしてたもんね。そこらへんは、有難うね。

私は部屋をぐるりと見回し全部の窓の施錠を確認すると部屋を出た。
私が出て行った後の向日の複雑そうな顔を、私はやはり知らない。

かき乱す
(何だよ…今の)

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