ズキン、ズキン、

「…」

なまえは部誌に文字を書き込むのを一度止めて右の手首を見下ろした。ジローにはああ言ったけど、腫れも痛みもさっきより増してきてる。ペンを握り直しても思うように力が入らない。少し動かすだけで神経に響いた。

(……鳳長太郎。やってくれんじゃん)
見た感じ好青年なのに、やはり人は変わるものだ。
その時ノートに人影が落ちた。

「オイ、クソマネ」
「…?」
「サボってねーで亜里沙の手伝いしてやれ」
「…サボってるように見えますか?」
「手が動いてねェんだよ」
「すいません。跡部部長」

部誌を閉じて腰を上げかけると、額を抑えた跡部がラケットの先で私の肩を押した。しかし攻撃的な迫力を感じない、とても弱い力で。――座れ。そう促していそうなので私はまたもとのベンチに腰を落ち着ける。

「…跡部部長、いみ、解りません」

手伝いに行けと言ったり座れと言ったり。

「俺の方がわかんねぇよ…」

いつもの堂々とした喋り方からは想像もつかないよな小さな声でそう項垂れた跡部は、私の隣に腰を下ろした。
休憩時間中にもかかわらず、数あるコートには一つの空きもない。熱心なのは準レギュラーの部員達だ。笑顔を振りまきながらドリンクを配っている亜里沙を一瞥して、私はまた跡部に視線を戻した。

「そんな姿、ファンに見られてもいいんですか?」
「どうでもいい」
「…へえ」
「それより、今はお前だ。…来い」
「っ」

突然立ち上がった跡部が、あろうことか右腕を掴んだ。いつもなら振り払いでもして断った所だが、今日はそれどころじゃない。あんまりの痛さに歯を食いしばって悲鳴を堪えた。

「、お前!」
「ぁ…とべ、離してっ」
「あ、ああ。悪い…!」

思わず懇願するような声になってしまったがようやく離してもらえた。私は手首を抑えながら、言葉に詰まる。痛ってー!ホント信じらんないバカ土下座しろ!心の中で悪態を吐きまくって深呼吸。

「そんなに痛かったか…?」
「…お気になさらず」
「…悪かった」
「何こいつなんかに謝っとるん跡部。自分、ちょお疲れとんのとちゃうか?」
「…アーン?」

声の主は言わずもがな、忍足だ。
跡部の肩に腕を回して私を見下ろす。こうして見ると壁のようだ。私は一歩後ずさった。

「何や、腕痛いんか?」
「…別に」
「やっぱさっきの効いとんのやな」
「あ?何ださっきのって」
「後で教えたるわ。…俺、今嬉しいねん」
「っぁあ!!」
「おい!」

まずいと思った時には既に遅く、忍足の大きな手が私の手首を捉えていた。掴まれているだけなのに、まるでひねり上げられているかのような激痛についに悲鳴が漏れる。
痛い、いたい、くそっ…!

「亜里沙苛めとった罰やで。こんなん、痛ないやろ?」
「おし、たり…っ!!」
「ん?…何や」

奴が耳を近づけてきた瞬間を狙った。手首の痛さを一瞬頭の片隅に追いやって、奴の肩口に歯を立てる。
「っづ!」
「、はぁ…う、」
思い切り噛んだから歯型もついてるはずだ。
私は泣きそうになりながらも必死で凛と立ち、こちらを睨みつける忍足を蔑む笑みを浮かべて言ってやった。

「酷い事した、罰ですよ、……痛かったですか?」

目には目を、

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