「信じてもらえないのは痛いです」と、そう言ったなまえの声は、静まり返った教室に不自然な波紋を広げた。
なまえの口から饒舌なまでに溢れ出た非難めいた言葉によって一時は怒りに沸き、誰もが憎々しい思いに駆られたというのに、次に同じ口から発せられた言葉はクラスメイト達は怒りを不安定なものに変えてしまった。


――どうなってんだよ

ひたすら口を閉ざしてその様子を見守っていた向日は、心がかき乱されるのを感じた。
信じてもらえないのは亜里沙だろ。お前に酷い目にあわされたっていうのに、ジローはそれを信じようとしない。どんな手段を使ってジローとの仲を固めたのかは分からないが、俺達テニス部はバラバラだ。

あいつが憎い。
急に現れて俺達を変えたあいつが憎い。


はず、なのに

「…っ」

向日は、人垣の中心でぽつりとそう言った苗字に駆け寄りたい気持ちにかられた。
それは誰もが嘘ばかりだという苗字の本当の言葉だったような気がしたから。聞き逃してはいけない、心の叫びのように聞こえたから。
「苗字」出したはずの声は自分の耳にすら届かず、向日の心の奥底に沈んでいった。

沈殿する

top
×