私が飛行機の中で1時間ほど考えたキャラ設定はこうだ。苗字なまえイズ・クールビューティー!潜入捜査と言ったらコレでしょ。あたしには程遠いキャラだから一回はやってみたかったんだよね。 笑うのは自己紹介の時一回きり!後は場合によりけりね。ああ、なんてアバウトなキャラ設定。カツラは買おうと思ったけど時間がないから止めた。 「へえ、ここが"氷帝学園"か…お金持ちの学校って聞いたけど案外小さいなあ」 これじゃあうちらの基地の方が幾分でかいかも。そんで、それよりさらにでかいボンゴレのアジトからしてすれば、こんなところお世辞にも大きいとは言えない。こりゃ期待外れだね。ぶつぶつ呟きながら足を運び、正面玄関から校内に入って職員室へ向かった。 「こんにちは。転入して来た苗字ですけど…」 「おお、いらっしゃい」 目の細いでっぷりとした中年の教師に笑顔で手まねきをされる。私は急ぐそぶりを見せずにゆったりとそちらへ歩み寄った。正直あまり近寄りたくなかった。(だって14時間ほど前には私ザンザスに頭ポンポンされるっていう凄いレアな洗礼を受けた身だからね)。 「ところで君、その髪は染めているのかね」 「へ……ああ、銀髪は地毛ですけど青は差し色です」 私は肩ほどまでに伸びた銀髪をいじりながら、前髪にひと房ある青色を指先でつまんだ。 「規則は守るように」 「はい(ここの規則しらねーし)」 人をむやみやたらに撃つのは止めよう、とかかな。まあ有り得ないか。日本って平和ボケした国だからね…一部を除いて。 どうやらこの中年男が担任らしい。 「じゃあ呼ばれたら入ってくるように」 そう言って室の中へ入っていった。 ていうか天下のなまえちゃんに向かって命令形ですかコラ。その腹引っ込めてからだって100万年早いっつうの殺しちゃうぞー? 「苗字、入れ」 それにしても何であのオヤジあんなに目上な態度なんだろうめんどくさー日本人めんどくさー。靴で部屋に上がるとめっちゃ怒られるしなぁ。だけどお財布とかちゃんと届けてくれるんだよね…。几帳面でお人好しで忙しいな! 「苗字ー?苗字入って来い」 「(あ、やばい…めっさ呼んでる)はい」 なまえがドアを開け一歩教室に踏み込むと、ざわめいていた生徒達は一瞬にして口をつぐみ、一様に息をのんだ。 目を奪うようなシルバーブロンドに、深海のきらめきを孕んだ青い瞳。 緩慢に緩んだ口元は綺麗な弧を描き、静まり返った教室によく通る声を響かせた。 「イタリアから来ました苗字なまえです。5歳までは日本に住んでいました。以後お見知りおきを、Stupido faccia i gattini(おバカな子猫ちゃん)」 ――完璧。満面の笑みで一礼すると、巻き起こる拍手。ふっ、ちょろいちょろい…これぞヴァリアークオリティ!!見たか愚民共!――なーんて事を考えている間も私はにっこりと微笑み続けているわけだから、読心術でも使わない限り私の本性には一生気付けまい。 一様に顔を染める男子たちを尻目に(あ、ごめんね。私ザンザス以外小石にしか見えないから)私はふわりと頭を下げた。 「なんだよ、あの子!超可愛くねっ!!?」 「イタリアだって…帰国子女とかヤバっ」 「お、おいお前話しかけて来いよ」 「何だよお前が行けよ!」 HRも終わり、群がる人をかき分けてくる者が一人。その気配に気付いた瞬間から滲み出る殺気が肌にピリリと沁みた。ああ。この子も笑顔の裏に何か隠しているのね。 「はじめまして」 第一印象:けばッ! 「わたし鳥居亜里抄っていうの!」 第二印象:クサッ! 「よろしくねえ?」 「…よ、よろし、くお願いします」 思わず息をつめてしまったのがばれないように返す。握手を求められて嫌々ながら手を差し出すと思いっきり握られた。只の小娘の握力などたかが知れているが少しだけ顔をゆがめて見せると満足したように手は離された。 「で、うわさの転校生とやらはどいつだ?」 「あ、景吾お」 前のドアから入ってきた人物に、教室は再びざわめく。私にとって女子からの歓声は耐え難いものだった。というかうるせーんデスヨまったくコノヤロー。 「お前か」 「ciao」 目線を合わせずに返すと、それは彼にとって些か不満だったらしい声が硬くなる。 「お前、俺様が誰だか知らねえのか?」 知ってるって…。何か貰った資料のリストに記入されてたもん。えとね… 「跡部、クン」 テニス部部長兼生徒会長…泣きぼくろ。女子からの絶大な人気を誇るナルシスト。それと私が持っている彼の一番の情報は、私にとって利になり害にも成り得る酷く不安定なものだからして、それはおいおい考えていくことにした。 私が知っていた事を知ると機嫌は直ったのか笑みを浮かべる跡部。 「クク、そうだぜ。何だ知ってるんじゃねーか」 「どうも初めまして」 リストに載ってたって事は重要人物なのだろう。素っ気なく返すと今度は不機嫌にならなかった。さっきのと今の…何が違うんだろう。 つーか私、この俺様好かない。腹立つ。俺様はザンザスだけで十分だっての。 でもザンザスの俺様の方があたし的には1億万倍すきだけどね!だって超かっこいいんだもんヤバいでしょ。 「お、何やえらい美人さんが来おったなー」 「うわ」いきなり話しかけられた為、妄…空想に入り浸っていた私は思わず声を上げてしまう。現れたのは関西弁眼鏡の彼。確か名前は…オス、オスタリ… 「そないに驚かんといてや。俺は忍足侑士。よろしゅうな」 「こちらこそ宜しく」 手を差し出せば一瞬驚かれたが、彼は笑ってそれに応えてくれた。当然それを不満に思う俺様が一人。 「アーン?何でこいつには握手してんだよ」 「俺様って嫌いでして」 「なっ」 「ブフー!跡部ソッコー嫌われとるやん、カワイソー」 君たち私の席の近く陣取って喧嘩するの止めてくれないかな。周りの皆さんちょっと距離開けてるじゃないの。…そもそも視線がイテーんですよ、あんたらのお姫様からの!ほんとデリカシーないのな、日本人。 私はひっそりと溜息を落とした。 アンティークストーリー いわば序章だよ。 ×
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