「任務に出てるレヴィとルッスーリア以外は全員集まったぜぇ」 夜中にも拘らずスクアーロの声は馬鹿でかい。少しは近所迷惑も……あ、この屋敷近所ないんだったっけ。寝坊助頭ではちょっぴり思考速度が遅れるらしい。私は目をこすりながらザンザスの隣のソファに腰かけた。 「うっしし、それで任務って一体何なわけ?」 ベルはいつだって至極楽しそうである。 「つーかなまえどんだけ目こすってんの」 「眠いんだよ」 「ししし!ガキだなー!ほんと」 「アンタと同い年だよ…。それに睡眠はお肌にとってもいいんだからね」 「報酬はどれくらい出るんだい?」 と、こちらは金にがめついマーモンである。 ザンザスは面倒臭そうにテーブルの上に資料を投げ置いた。まず最初に、私がそれを持ち上げる。 「今回の任務はお前に行かせる…。なまえ」 「ふうん。……あれ、ジャッポーネ行くの?」 「ああ」 「綱吉んとこと近いのかな〜。近かったら挨拶にでも」 パラリと資料をめくったなまえの手が止まる。―――――あまりの事態に眠気は一気に吹っ飛んだ。 「…何これ」 人体実験に麻薬の売買、兵器の製造に武器の密輸。付属された写真は何とも原形を留めていない"人であったもの"の姿。サンプルと書かれたプレートには赤い字で『A failure(失敗作)』と綴られていた。 「…穏やかじゃねぇなぁ」 その資料を隣のスクアーロに回すと、彼は開口一番そう言った。次に回されたベルは「うわ、グロー」と嫌悪感をのせた表情でそれ見つめる。彼の殺し様もそれなりだが、そのベルが真顔になる程度には残酷だった。 「アルギット…やつらも堕ちたね」 マーモンの呟きは不思議と部屋に響いた。 アルギットファミリーは以前ボンゴレと同盟を結ぶために本拠であるイタリアの地に足を運んだが同盟締結には至らず断念。こんなことするような奴らだったなんて…やっぱり9代目の決断は正しかったようだ。 「アルギット3代目ボスの一人娘が日本の学校に通っている。そこで、ガキ共に薬をバラ撒いてるらしい」 「…」 一般市民を巻き込まない、これはマフィア界での暗黙の了解なはず。それすらもアルギットは犯してしまったのか。何の罪も無い日本の学生達がさぞかし不憫だ。私はすくっと立ち上がって尋ねた。 「任務開始は?」 「明後日だ」 「じゃあ今日中に飛ばないと。準備してくる!」 「待て」 「え?」 駆け出しかけた私を人差し指で呼びつけたザンザスは、ポケットから取り出した拳銃を私に握らせた。冷たく重い鉄の感覚はずいぶん久しぶりで、その黒い表面に指を滑らせる。 「昨日新調したばかりだ。何かあったら使え」 「く、くれるの!?…お金取らないよね」 「あたりまえだろうが」 今日は誕生日ではないけれど、何故か機嫌のいいザンザスにプレゼントを貰ってしまった。レヴィに自慢し…たらすごい剣幕で追いかけてきそうだから止めよう。でも、とにかくうれしい…! 「、ありがとうボス―――っ!」 思いきり抱きつくと、ザンザスは満足そうに鼻を鳴らした。それを見ていた面々もまた和やかに会話を弾ませる。 「相変わらずベタ惚れだね。見てて背中がかゆいよ」 「王子もかゆい」 「あのザンザスがなぁ」 「テメェら、カッ消す!!!」 一時半壊となりかけた部屋を後にして、なまえはさっそく準備に取り掛かったのだった。 色気<武装 は当たり前 「送ってきてくれてありがとう、皆!」 「間に合ってよかったわン!なまえチャン、しっかり殺るのよっ」 「う、うん」 「王子には一日一回電話な」 「う、うん…」 「せいぜい死なねェように気ィつけやがれぇえ」 「いや死なないよ!」 「よ、妖艶だ」 「…」 「気を付けてね、なまえ」 「ありがとう、マーモン」 私はザンザスと向き合い、にっと悪戯に笑んで見せた。ザンザスも満足そうに頷き、私の頭に手を置いた。 「行って来い」 「ん。――行ってきます!」 ×
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