「大切な何かを守るため〜僕は・私は強くなる」としても、だ。人間そんなにすぐに強くはなれないのである。怒りから燃えるように狂暴化することはあっても、だからといって急に足の筋肉が活性化することはないのである。 つまり、たかが一般人の全力疾走が暗殺部隊幹部の足の速さに匹敵することは、不可能なのであった。 「あっち行ったか!?」 「クッソ、逃げ足の速い奴だ、見失っちまった」 「亜里沙の為にも、早くつかまえねーと!」 「行くぞ」 相変わらず、薄気味の悪い友情ごっこだ。 私は地学準備室のドアからこっそり外を覗き見た。廊下は生徒でごった返しているが、同じクラスの人間や亜里沙信者、テニス部の面々は見受けられない。 このまま昼休みが終われば、取りあえず刺客の数も減らせるはずだ。 ドアをがらりと閉めて、一息つく。 鳥居亜里沙。アルギットファミリー3代目ボスの娘、4代目ボス候補、氷帝学園2年、テニス部マネージャー。 暇だったので、鳥居亜里沙についての詳細を頭の中で繰り返し明記してみた。 「…あ」 携帯がピピピッと光る。通話ボタンを押せば、その瞬間耳をつんざく様な濁音が鼓膜を揺さぶった。思わず耳を塞いでしまう。 「…ちょっと…煩いよ、スクアーロ」 『よお゛!!元気にやってかぁ!?』 「たった今鼓膜が危機を迎えたけど、まあ、元気」 『そうかぁ!』 「…スクアーロも、元気?」 『う"お"ぉ"ぉぉおい!!』 「うわ、何煩い」 『しょぼくれた声出してんじゃねぇぞお!!』 そんな声出してたかな。 あ、そうだった私とっくにホームシックだった。 『何かあったのかぁ!?』 「んーん、何にもないよ」 ただ、常に糸はってなきゃいけないこの箱の中にいるより、夜のイタリアの街を駆け回ってる方がよっぽど楽しいなって。アレ、この発言まるで私殺人鬼だ。まあいいけど。 『…無理はすんじゃねぇ!お前には、ザンザスがいるんだぁ!奴を頼れ!』 「そこは俺に頼れ、でしょ?」 『う"お"ぉ"い!俺はまだ死にたくねぇ!』 「ふふ!」 『…――だが、まあ…俺達もいるからよぉ。とりあえずちゃっちゃと殺って帰ってきやがれぇ!』 「うん、ありがとうスク」 ――あ、やべ。咄嗟に電源ボタンは押したものの、スクアーロは明らかに何かあった事を悟るだろう。 (余計な心配かけちゃうな) 「ここにおったんやな。…なまえチャン」 「…」 大事な憩いのひとときが 取りあえず今は無性にルッスーリアのいれる紅茶がのみたい。 ×
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