「やめときなよ、亜里沙!」
「絶対また何かされるよ」
「あーいう子には何言ったってダメなんだって…」
「ありがとう。……でも、ちゃんと話さなきゃ」
「亜里沙…」

かくして

「なまえちゃん、ちょっといいかなぁ?」

亜里沙に呼び出され、私は今屋上にいるというわけだ。

――話は変わって
私が監視カメラを取り付けた場所は3つ。部室と、屋上と、体育館裏。いつ亜里沙の本性が現れてもいいようにと念を入れておいたのだ。
本来なら装置一式がイタリアから届くのを2、3日待ってから行動するが、今回は相手の行動があまりに予想し難い為、手持ちのカメラを3台だけ先につけておいた。
期待通り、鳥居亜里沙はカメラの前でことごとく本性を晒してくださっている。

亜里沙はフェンスに近寄り、並盛町を見下ろしながら尋ねた。

「皆に嫌われる気分はどーお?」
「…」
「さぞ惨めでしょうね〜。あ、でも亜里沙恨むのは筋違いだから」
「…」
「だって亜里沙ちゃんと忠告したし?こうなったのはあんたの自・業・自・得!」
「…」
「でも学校辞めたりしないでね。亜里沙の下僕が一人減っちゃうから」
上機嫌にそう告げる亜里沙。
しかしなまえから返事が返ってくることはない。

「…ちょっと!何無視してんのよ!!」
不審に思った亜里沙が振り向いたところで、私はゆっくり耳からイヤホンを抜いた。

「…あ。もしかして何か喋ってました?」
「!!」

亜里沙の顔が怒りに酷く歪む。私ってつくづく挑発が得意だな、と思う。

「………いいわ」
「?」
「あなたには、たっぷり後悔させてあげる」

そう言い終わった亜里沙は携帯を開き、耳に押し付けた。数秒後、咳ばらいをした彼女は電話口に盛大に咳き込み始めた。

「ぁ、げほっ…た、すけて!!!なまえちゃん、が…キャァ!!!」
短く叫び終えた亜里沙は自分で携帯を下に叩きつけ、ぐしゃりと踏みつけた。そしてこちらにニヤリとした笑みを浮かべて見せる。


「1分よ。」
「…」
「亜里沙の忠実で馬鹿で偽善者ぶった駒達が、あんたを消しに来る」

ザンザスに貰った拳銃を使う気はない。正体を見破られたら困るから、体術での応戦も不可能。神経を研ぎ澄ませば聞こえてくる、沢山の気配。
――取りあえず、ここは逃げる他なさそうだ。
だっと屋上を飛び出した私の後ろから亜里沙の甲高い笑い声が追いかけてくる。

「逃げたって無駄よ!!アンタはもうとっくに罠にハマったんだから!!キャハハッハ」

女王の嘲笑
(あーあ、誰か聞いてれば一発なのに)

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