前髪から滴がしたたり、その瞬間クラスがどっど沸く。あまりの幼稚さに私は言葉も出なかった。 「あれー!?苗字さん、どしたの?」 ご覧の通りですけど。 「雨にでも降られた!?」 ええ。かなり人工的なね。 チラリと黒板を見ると大きく「自習」と書かれていた。床に転がるバケツと、水溜り。 もうやだこいつら。殺っちゃいたーい。 「ちょっとねえ、何とか言ったらどうなの」 「…皆さん暇ですね」 「ハァ!?」 「それと、寒いです」 「…ンだよその態度!」 私があまりにも平然としすぎていたためか、あたりからは野次が飛ぶ。 「つーかこいつ無傷じゃん」 「ボコボコにされて帰ってくっかと思ってたのに」 「跡部様は優しいからよ」 「こんな奴死んじまえばいいのに」 「み、みんな…!言い過ぎだよ」 「亜里沙…」 出ました、お姫様! 何人かの女子の後ろから怯えるように出てきた亜里沙を私は黙って見つめた。 「亜里沙、何言ってんだよ!」 「こんな奴かばうなよ」 と、宍戸と向日だ。この二人は完璧に亜里沙の側に着いたらしい。 「でも、亜里沙、なまえちゃんを信じたい…」 「…っ亜里沙」 「だって…友達だから」 「、あり」 「反吐が出る」 思わず口をついて出てしまった言葉に、私は責任を持つことにした。 「ッ何だと!?」 「生憎私には、あなた達の友情ごっこに付き合ってる暇はありませんから」 髪を掻き上げて席に着く。発した言葉は思いの外興味なさげに放たれた。 それに触発された一人の生徒が「この野郎ッ」と殴りかかってきたが、バックからタオルを取る動作で屈み、それを避ける。なんて自然なパフォーマンス。100点満点だ。 「避けてんじゃねぇよ!!」 「…何かしました?」 「ッ…んのアマ」 「止めろ」 再び振りかぶられたそれを止めたのは宍戸だ。しかし、助けたというわけでは無さそうである。 なまえの近くまでゆったりと歩き、伸ばされた手はなまえの胸ぐらを掴んで立ち上がらせた。 (…ちょっと止めてくんない。私お腹見えちゃってんだけど。私の腹チラなんて目に毒だよ……アレ?)視界の端にほんのり頬を染めている男子生徒数人がうつり、なまえはげんなりとした。 「亜里沙に謝れ。もう二度としないと誓え。…そうしたら、俺達もこれ以上の事はしねェから」 「…」 間近で凄む表情は中学生にしてみれば中々迫力があったけど、私を慄かせるほどのものではない。そもそもこちらは、とっくに覚悟ができているのだ。 「最後のチャンスだと思え」 「…」 「殴った事を、亜里沙に」 「謝りません だって、私は殴っていませんから」 怒りに染まった宍戸の瞳。頬に鋭い衝撃が走り、痛みに眉をひそめた。 殴る事がいけない事ならあなたのそれは何よ。謝らなくていいわけ?ねえどうなのバカヤロー 心の糾弾が彼らに届くことはない。 「お前、終わりだよ」 死刑宣告 ×
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