「目には目を、歯には歯を」 「…」 「なまえチャン。この意味知ってる?」 小首をかしげて尋ねる亜里沙。狂気を孕んだ瞳が炯炯と光るのを、なまえは確かに見た。 「日本のことわざです。意味は…報復、制裁…」 「そう。分かってるじゃない」 クスクス、耳障りな笑い声だ。 「私のテリトリーに足を踏み入れた罪。私の玩具達を奪おうとするその醜い心に、制裁…しなきゃね」 ――はぁ? そんな感情が顔に出ていないといい。お嬢さん、そりゃちょっと被害妄想が過ぎませんか。 …や、でも大体あってるか。 確かに私はこれからあなたのテリトリーとやらに飛び込んでひと暴れする気だし、あなたが後生大事にしている「氷帝テニス部」っていう玩具をあなたから容赦なく取り上げる。 でも、醜い心ってのにはカッチーンきちゃうよ。 「でも亜里沙、優しいから、最後にもう一回チャンスをあげるの」 「?」 「なまえチャン…今朝亜里沙を助けてくれたでしょ?」 だから、何でどいつもこいつもあれを「助けた」と解釈しちゃうんだろう。頭お花畑かっての。 「アレ実は亜里沙の自作自演なんだけど」 「!」 「あはぁ!驚いてる〜」 (うそぴょーん) 「何でって顔ね。理由は簡単・アンタをハメるため。でもあの時亜里沙思ったの。 ――こいつ、手駒にしたら使えるかも…ってね」 「…どういう意味です?」 「ふふ」 亜里沙は妖しく微笑んで続けた。スカートのポケットから取り出したのは、緑色のバラが装飾された指輪だ。趣味が悪すぎて鳥肌が立った。ボンゴレリングを見習ってほしい。 「私のパパ、マフィアのボスなの」 「(私も!実はマフィアなの!…言えたらどんなにいいか)」 「これはアルギットファミリーの幹部だけが持つことのできるリング。アルギットリングよ」 「…」 ていうか、一般人にそんな事話していいはずないのに。 「あなたが私に忠誠を誓い、今後従順な働きをしてくれるっていうなら、仲間に入れてあげても」「お断りします」 「…何ですって?」 「お断り、いたします。 マフィアだの何だのには、テニスや、跡部景吾や、その他もろもろの何より興味がありません」 「…」 「あなたの本性はよく分かりました」 私は潔く踵を返し、亜里沙が罵詈雑言を吐き捨てるよりも早く、言い放った。 「あなたがどれほど粋がっても、所詮中小マフィアに出る幕はありませんよ」 屈辱や怒りに真っ赤になった亜里沙に、妖艶な笑みを向けて私は部室を出た。 (あ、いけね。部室にカメラセットしてるの忘れてあんな事言っちゃった。……まあいっか) これでお姫様は本格的に怒ったろうから、いよいよ仕掛けてくるだろう。――楽しみじゃないと言えばうそになる。 喧嘩を売ってみた 楽しませてごらんなさい。 ×
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