「クックク…」 「何や跡部、嬉しそうやんなぁ」 「まぁな」 「なまえちゃんの事やろ」 ラケットを弄びながら無言で肯定を示す跡部。かわりに、傍にいた宍戸が頷いた。 「アイツ、すげーよ。たった一時間であの部室を綺麗にしやがった」 「下手したらこっちの部室よりも綺麗ですね」と日吉も同意する。 「おれ、あっちの部室にうつろっかなー」寝ぼけた台詞は言わずもがなジローである。 「アイツの働きぶりは、期待以上だ」 やはり俺の目に間違いはなかった。跡部は言い知れぬ満足感に浸っていた。 *** 上機嫌な跡部とは反対に、こちらは言い知れぬ敗北感に打ちひしがれている亜里沙だ。 ――あの部室を見たら、マネージャーなんて止めたくなると思った。あの汚さは類を見ないし、一日でどうこうできるレベルじゃないはずだった。 「亜里沙が、」 平和的に解決してやろうと思ったのに! 「亜里沙、が…っ」 痛い事も、面倒事もなくアンタを開放してやろうと思ったのに。アンタは自分でチャンスを逃がしたんだから。後悔したってもう遅いわ。わたしがアンタを地獄に送ってあげる。 「私のものは、誰にも渡さないんだから…!」 狂気の色が瞳を染めた瞬間、部室のドアが開き、なまえが軽い足取りで入ってきた。 亜里沙にとってそれは自分の領地に悪意を剥き出した他人が、土足でズカズカと入り込んできたような、そんな錯覚と似ていた。 目の前の美しい女を殺したいとさえ思った。 (いいえ!) ―――亜里沙の方がずっと可愛い。 ――亜里沙の方が、こんな女よりずっと皆に望まれてる! 狂気にまみれた亜里沙の過信は、亜里沙の感情を強い憎悪へと結びつけた。直感的にヤバいと感じたなまえだったが背を向けて逃げる事はしない。それにガチンコ勝負ならこんな小娘に負けるはずもないのだ。 「どうしたの、鳥居さん。そんなところに座り込んで」 火蓋は切られた かかってらっしゃい。受けて立つから。 ×
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