「はあ、はあ、はあ…まじ……たんま」

十数メートル後ろに迫る、跡部、樺地、忍足、鳳、向日。日吉とジローはお話が終わったので離脱というわけか。そんなバカな。こいつら全員と会話してたらとんでもない時間を食う上に、絶対疲れる。

「あ。」

「え゛」

T字になっている廊下を曲がろうとした時、運悪く角で宍戸と遭遇してしまった。
宍戸の目が一瞬で狩人のそれに変わる。

――ガシッ

「んげぇ!」
「走るぜ!」
「はし、走る…!??ええーっ」

宣言通り、私の腕を掴んで猛ダッシュし始めた宍戸。奴は後方から跡部達が追っていたのに気付いたらしい。

「ちょ、ちょっと」

走るって君らはジャージで運動的だからいいけど、
あたしの格好見てくれない?
スカートなの!ちょっとでもアクロバティックをさく裂させたら大航海、じゃなくて大公開なの!
(だから窓から飛び降りる策は断念。跡部の奴絶対これ狙った。)


「も、もしかして痛ぇのか?」
唸る私を見て勘違いした宍戸は、なんと
「15秒我慢してくれ」
「え、え、ぎゃうあ!!」
軽々と私を抱き上げたではないか。


「ああーー!!クソクソ宍戸ー!」
「今気付いた。苗字ええ足しとるな」
「アーン?俺は前から…って、こんなの聞かれたら消されるぜ」
「あのザンザスって人にですか?そしたら宍戸さんの方が危ないんじゃ」
「せやな。」

後方の、論点のずれた会話もどんどん遠ざかる。
角を二回ほど曲がり、行き着いたのはなんと教室。

「え!?はいんの!?宍戸っ!?」
「一瞬隠れるだけだ」
「絶対授業中だけど!」
「うるせーな今日は大丈夫なんだよ。」
「は!?って、ちが、あたしここきまずっ」ガラッ

容赦無しに引き戸を開けて、静まり返った教室に飛びこんだ私と宍戸。
気まずい気まずい気まずい。
もうこうなったら一刻も早くこの場を去りたい。と、私を下ろしてドアに耳を押し付ける宍戸の傍に屈んだ。

『アーン?あいつらどこ行きやがった』
『さっき曲がるとこ逆だったんじゃね?』
『やっぱ団体行動あかんわー。ほな俺こっち探すで』
『僕は下の階に下りてきますね。』

彼らの会話が教室の前を通過する。私達は息を潜めて足音が行き過ぎるのを待った。



「………行ったみてぇだな」
「…うん」
「……あのー、よ…悪かった、腕掴んで」
「や…別にそれは」
むしろだっこの方を気にしろ。
とりあえずの休憩を貪る私達に突き刺さる視線、矢の如し!

「宍戸!苗字!お前ら授業サボってどこ行っておった!」
その声に、私達はこぞって肩をビクつかせた。


「お前らは学生としての自覚が足りん!」

「先生!今日は…その、」
「そうッスよ!跡部会長も校長も公認だって」
というクラスメイト達のよく分からないフォローも、その教師には通じなかった。

「授業妨害の罰として、お前ら二人、この問題前に出て解いてみろ」
「「…!!」」

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