「ジ、ジロ……いま、あんた気配を」
「なまえ!俺、なまえに見せたいもんあんだよね!来て」
「いや、でもあたしもう行かなきゃ」
「A−!だってお屋敷でるの12時なんでしょ??まだまだまーだあるC〜」
「何で知ってんの!?」
「ベルに聞いたC〜」

情報の発信源は奴か。

「ほら。来て!」
導かれるまま階段を登る。

「ねえ、ジローちゃん」
「ん?」
「もうすぐ授業始まっちゃうんじゃない?」
「跡部がね」

心の底から嬉しそうに笑うジロー。


「よく聞けお前ら!なまえと話せるのは間違いなく今日が最後だ。なまえは逃げるだろうが、悔いの残らねぇように、話したい奴はあいつをとっ捕まえて話したいだけ話せ!時間は好きに使え!

――てさ!」

「跡部の奴…」
「面と向かわれたら逃げらんないなまえの性格、おれ達もう知ってるから!だから跡部もさ、皆になまえを追わせたんだと思うC〜」
「…そっか」

どうしてだろう。
なんか、悪い気がしないのは。


「ついたよー」

「え、ジロー…ここ」

「そ!おれとなまえの出会いの場〜!」

日当たりの良い4階の踊り場。
寝ぼけ眼のジローに無理やり膝枕を要求されたのは、この場所だった。

「目開けたら綺麗な女の子いて、おれマジビビったCー」
「あたしは初対面の相手に膝枕してる自分に驚いたけどね。」

陽だまりに座りながら、ジローは私を手招いた。

「なに?」
「これ見て」

ジローが指さすのは、グリーンの床に黒いペンで書かれた落書き。

――かつのはひょうてい

「ジローが書いたの?」
ジローは首を振った。

「4こ上の、元氷帝テニス部の先輩に知り合いがいて、その人にこれ教えてもらったの」
「じゃあ四年前からあるってこと!?」
「しかもその人も先輩から聞いたって言ってたから、もっと前に書かれてたんだよね、きっと!それってすげーよね!?」

私はかがんで、もう一度その落書きを見た。
ネームペンの、後ろ側の細い方で書いただろ!てかんじの字。

「よく見たら、けっこう重ね書きされてるでしょ?」
「うん」
「だからこれを見た誰かが消えないようにって、薄くなった時にちゃんと書き直してるんだと思う。」
「…ふーん」

私もジローの横に腰を下ろした。

「でも、それならもっと太いペンで書けばいいのにね」
「馬鹿だね〜なまえ」
「む!?」
「そしたら先生とかに見つかっちゃうよ」

見つかって消されないように、誰かから誰かへこっそり伝わる小さなシンボル。

「おれ、一年の時からずっとこの落書き好きでさ、守護神やってるんだ〜」
「…昼寝スポットとして?」
「そー!E−考えでしょ?」

さすがジロー。褒め言葉かも怪しい台詞を内心でぼやけば、膝の上に重み。

「なまえの膝枕もこれで最後かー…寂C〜」
「…ジロー」
こうしてジローを見下ろした事は何度かある。
素直な彼の表情はいつも正直で、今も、眉毛を下げて泣き出しそうだ。

「…もしさ、綱吉君とかのところに来ることがあったら、…おれにも教えてほしいC〜」
「…ふふ。どうしよっかな」
「A−−−−−!!!」
「うそだようそ!ちゃんと連絡する」
「ほんと!?やったー!!」

ピルルル


「ん?」
「あ、あとべだ。もしもC〜」
『おいジロー!!お前なまえ独占してんじゃねぇだろうなぁ!?アーン??今何してんだ!』
「膝枕」
『よしわかったそこ動くんじゃねーぞジロー。おい!4階踊り場だ!落書きの―――(ブツッ)』
「……キレたC〜」
「え?跡部が?電話が?」
「んー、たぶんどっちも」

ジローは私の膝から頭を上げて伸びをしている。

「えー、もしかしてココばれた?」
「ははは、バレてるね〜」
「えええ」
「なまえがんばれ!おれ応援してるC〜!」
「いや、も、ちょ…もううう」

私は起き上がって階段に向かう。
ジローは「あ!」と声をあげた。

「なまえ、一昨日コート直って、ようやくテニスできたんだけどさ」
「うん」
「すっ」
「?」
「っっっ」
「…??」

「っっっっっっっげー楽しかった!!


だから、なまえありがとー!!」

満面の笑みで私に告げたジロー。
私も、今度ばかりは顔が綻ぶのをとめられなかった。

「じゃあね、ジロー!!」

「ザンザス先生と仲良くね〜!!」

「ブッ……」
ジローにもう一言、と顔を上げた時、踊り場に、文字通り踊り込んできた跡部達。私は彼らを見るなり潔く階段を飛び下りた。全段。

「アイツッ、あんな危ねェ真似を!!」
「クッソクソ、アクロバティックなら俺も負けてらんねー!」
「止めとけ岳人!自分さすがに怪我するで!」
「樺地、向日を止めろ!」
「ウス」
「跡部達遅かったねー。おれしっかりなまえとお話しちゃったC〜」
「芥川さん!つかまえておいてくれても…」
「ジロー、今日外周追加するから覚悟しとくんだな」
「A−−!!」

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