「鳥居亜里沙。金も権力も信頼も仲間も、全てを失った気分はどう?」 「…」 「これであんたの舞台はお終い。ああ、私を憎むのは筋違いだよ。だって全てはあなたが撒いた種だから」 「………苗字なまえ」 「ん?」 「……初めて会った時から、あんたは違和感の塊だった」 そう。教卓の前に堂々と立ち異国語を交えた挨拶をするアンタを初めて見た瞬間から、色んな点に違和感を感じた。 作ったような笑顔にも、話し方にも振る舞いにも、私たちに接する態度にも。 私が本性を晒した瞬間の反応も「今まで」とはまるで異なっていたわね。 思えば、あんたの恐怖に満ちた顔を、私は今まで一度だって見たことが無い。――どうしてか考えないようにしていたの。単に、命知らずな無知な女で片付けていた。 でも違ったのね。 私以上に巨大なバックアップがあって、心強い恋人がいて、信頼できる仲間がいて。 だからああも自信を持っていられたんだ。憎いわ。恨めしい。羨ましい。…殺したいくらい。でも、 今は、どうしてかその、黒々と渦巻く嫉妬の念は消え去ってしまった。 お父様に裏切られたショック?殺されかけたせい?わからない。どうでもいい。 ただ、心の底から理解できないけれど、権力も信頼も全て失って初めて ――呼吸ができた気がする。 今まで無意味に繰り返していたものが馬鹿らしくなった。苦しいのに、辛いのに、とても楽だ。――そして私は、真新しい酸素を吸い込んで顔を上げた。 「!!」 銃口の向こう側に、苗字なまえがいる。 無意識に、涙が流れた。 喧騒がぴたりと止んだ。 館内に流れ込んだ風で銀色の髪が揺れ、私を見下ろす澄み切った瞳は、やはり海を連想させた。 (認めたくなかった) 自分がずっとマフィアとは無縁の平凡な女だと思い続けていた女が、銃を構える姿。 それは 「……綺麗」 はやくその毒を頂戴 吐き気がする程、美しかった。 ×
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