生徒達に一筋の希望の灯をともした跡部。そのおかげで仕事がしやすくなったのは、間違いないだろう。

「苗字先輩!!」
私は叫んだ日吉を見下ろした。
「謝罪?ならもういんないけど」
日吉は首を振る。分かってるとでも言いたげだ。

「謝罪なら、生き延びてから死ぬほどします」
「…意味ないじゃん」
「今俺が知りたいのは、俺達が生きる為の方法。

…先輩達の言う"奴ら"がここへ来るなら…本当に来るなら。俺達は逃げるべきなんじゃないんですか」

日吉のように考える生徒も少なくは無かったらしい。
溜息を絡めて説明に移ろうとすると、意外な人物が言葉を挟んできた。


「…ダメや。」

「忍足さん…?」
「………。跡部の説明聞いたやろ。俺達が今外へ逃げれば、間違いなく、死ぬ人間の数は増える」

流石忍足。跡部が天才と囃すだけはある。
私は、よく理解できなかった生徒達に説明する気でいたのだが、彼から言葉を引き継いだのは、意外にもザンザスだった。


「仮にてめぇらが逃げたとしても、アルギットは指標を中から外へ移すだけだ。酸素の量が多いはどっちかなんて質問、今更させんじゃねェぞ」
「!!」
「そゆこと。しし!…でもお前らがココに残ってくれたら、アルギットをおびき寄せて一掃できるし、お前らも死ぬ確率がぐっと減るわけ。まさに一石二鳥だろ?」

「お、俺達を餌にするってことか!?」

「そうだぁ!!」
「ちょっと、スク」
「本当の事じゃねぇか。隠す意味もねぇ」
「そうだけど」

「餌になってちっとでも生きる可能性上げるか、もしくは犬死か、選びてェならとっとと選べぇ!!」
スクアーロの言葉に、生徒達はいよいよ死を間近に感じたらしい。今にも泣き出しそうな少年少女が、ここからでも見受けられる。
そんな折、体育館脇の扉が勢い良く開けられた。


「ちょ、ちょっとザンザス!スクアーロも……そんなに脅さなくてもいいだろ!」

「!、綱吉」
「沢田」

綱吉の後から、山本と獄寺と良平も駆け込んでくる。

「チャオッス。順調か?」
「うん!」
「遅刻とはいい度胸してやがるな」
「なあー!?もとはと言えばお前が、…って、お、思ったより人数いるー!!」
「綱吉遅いぞ!」
「なまえ!ご、ごめん!」
傍までやってきた綱吉は遠い目をして言った。

「アルギットファミリーの手下が何人も待ち伏せしてて」
「ん?それってザンザス達が掃除してきたんじゃ」
「俺達がてこずったのはコイツ等のせいだ!!」獄寺が目を三角にしてザンザス達を指差した。
「う゛お゛ぉおい!!言いがかりだぁ!」「全員再起不能にしたんだし、文句言われる筋合いなくね?」こちらは折れる様子もない。


「ザンザス達の通った道、並盛からココまでずーっとアルギットの奴らが倒れてたのな」
「極限にヘンデルとグレーテルごっこかと思ったぞ!」
「うん。…想像できた。申し訳ない」
「テメェ等にはお似合いの仕事だ」
「ンだと!!?」
「ザンザス!獄寺君も!喧嘩してる場合じゃないって」

額に汗を浮かべたまま、深呼吸をひとつした綱吉は氷帝生に向き直った。



「始めまして。俺は、沢田綱吉。…なまえの友達です」

友達。
ボンゴレ10代目、じゃなくて、私の友達。

(おい、何ニヤけてんだよ…しっしし!ボスに言いつけんぜ?)
(え…だってなんか嬉しくて)
(殺されてぇか)
(あ。聞いてたの…)

「アルギットがここへ到着する間であと15分。あいつらは、俺達ボンゴレの動きを見張ってる『つもり』だから、俺達やザンザス達がここに来てることはまだ知らないはずなんだ。」

私達の言葉が、彼らの恐怖と不安を煽るようなものだとしたら、綱吉の声にはどこか人を安心させるものがある。

「俺達の言うことを聞いてくれたら、きっと全員、無事に家に帰れる。

俺達が君らを守るから。」

「………本当に?」か弱く泣き出しそうな声を出したのは、うちのクラスの女子だった。
彼女は私を指差して言う。

「だって、だって…!!私達、なまえに、死ぬほど……酷いこと、たくさんした!

もし私があんただったら、なまえ、だったら、

私らみたいなのは絶対に助けない!!!!」


「うっさいな!」
私は半ば叫び返すように、自己中心的な彼女にそう言った。勢いのままシャツの裾をめくり上げる。
「おい!なまえ」と跡部の焦り声。ザンザスからの殺気。…。

「これが、今日の任務を完遂させるために、私が我慢した証。」

大部分色の変わった腹部の痣を見せただけで、何人かが息を飲んだのが分かる。

「私が9代目から授かった、初期の任務内容を教えてあげる。
『罪なき一般市民に無作為に薬を売りさばく鳥居亜里沙の確保』

続けて、ヴァリアーに要請された任務は、『アルギットファミリーの危険度を再調査、再検討。その過程で、ボンゴレのシマやそこに住む住民を脅かす危険分子を発見した場合、ただちに殲滅せよ』」
「!!!」
「…分かった?私たちの護衛対象は、最初っから最後まで、ずっとあんた達なんだよ!」


私があんただったら?
馬鹿言わないで。こっちの覚悟なんて、知りもしないくせに。私だって、私だって、





「―――ッきらい!」

「だいっきらい!!」

「今ここでアンタ達全員の命救ったら、その後はどこでのたれ死のうが関係ないから。絶対しらないから!」

「わたしはザンザス達と、絶対イタリアに帰るから!!」


私は踵を返し、ザンザスの後ろに回って俯いた。
「…?」
無意識に握っていたザンザスの隊服から、こまやかな震えが伝わってくる。

「ザンザス…?」
「…」
「笑わないでよ…」

溜息を吐くと、ザンザスの腕が私の首にまわって横にピッタリ引き寄せられた。
「ガキが」
どこか嬉しそうにそう言いながらわたしの頭をくしゃくしゃに撫でるザンザスを見て、私は、心のささくれがそっと抜けていくのが分かった。

後衛参上

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