「先方はどうした」
「まだ来ていないようです」
「フッ…まあ、じきに来るだろう」
「どうなさいますか。ボス」
「先に舞台を用意しておこう…。行くぞ」

氷帝学園の体育館周辺をぐるりと取り囲む男達の姿。でっぷりとした身体つき。ずぼんに腹の肉を乗せてなお威風堂々と肩で風を切るその男こそ、この舞台の主役。鳥居であった…―――。






『校長先生、ありがとうございます。それでは今から表彰に移りたいと…』

激しい音を立てて体育館後方の扉が開いた。ぞろりと現れたガスマスクをつけた男達に、生徒達はいっせいに悲鳴を上げる。
「これはこれは、氷帝学園の皆さん。全校集会中失敬」
「だ、っ誰だ!?お前は!」
職員の一人が声高々にそう叫べば、鳥居は含み笑いを顔に浮かべたまま、片眉をあげた。
「どうぞお気になさらず。私はただ、一父兄として皆様に挨拶をと参上したまでですので」
「あ、挨拶…??」
「いつも私の娘がお世話になっているのでね。…申し遅れました。私、鳥居亜里沙の父、鳥居吾郎と申します。諸君らが死すまでの短い間、どうぞよろしく。」
「何をッ」


「遅くなたアルな。アルギット・ファミリー、鳥居ボスはいるか」
「おお!おお!ウェンロウ殿。よくぞ来てくださった」
扉から現れたチャイナ服の男に注目が向く。
「紹介しよう。中国最強マフィア、チャン・ファミリーのボス。ウェンロウ殿だ。」

「今回はワタシ達の会合場所と実験人材を提供してくれて、感謝するネ。そして同時に、我らの生み出す新しい世界の礎となれること、ワタシ達に心から感謝するいいネ」

つたない日本語で語りかけるウェンロウは、後ろに控えさせていた部下のうち一人から巨大なトランクを受け取った。
整列していた生徒達は、恐怖し混乱しつつ、鳥居とウェンロウから距離を空け、体育館の壁際に寄った。


ウェンロウが取り出したのは、巨大なバズーカである。

「ほう…それが。」
「そうネ。ここに、そちらの持てる薬いれて、生徒全員殺すことできたら、ワタシ達同盟結成アルヨ」


鳥居が深い笑みを顔に浮かべ、自分の懐に手を入れる。
「あのぉ、すみませーん」
それと同時に一人の氷帝生が、生徒達の群れを抜けて体育館の中心に躍り出た。彼女を止めるようにして、男子生徒も転がるように走り出てくる。


「何だね、君達?」
「どーも!ちょっと聞きたいんですけどぉ、いいですかぁ?」
「だめだ!なまえ!もどろうっ」
「……君は彼女の恋人かね?困るよ。ちゃんと手綱を握っていてもらわないと」

ガチャ、ドォン!!
鳥居は迷いなく拳銃の引き金をひき、女子生徒はがくりと崩れ落ちた。悲鳴が木霊する。

「そうすれば、一緒に死ねただろうに」
「まだ話、終わってないんですけどぉ」
「…―――!?」

仰向けに床に倒れた少女はその姿のまま、笑みを絶やさずに続ける。

「さっきぃ、私達を殺す的な事言ってましたけどぉ。この中にはあなたの娘さんもいるんじゃなくて?」
「お、おまえ…撃ったのに……ナゼッ!!」
「一緒に殺しちゃおうって腹ですよね?だってこの計画、娘さんは知らなかったもの。」
「!!」
「知らずにのこのこ、鳥居亜里沙は集会に参加していたもの。」

少女は、なまえは、ブレザーと一緒に、防弾チョッキをも脱ぎ捨てた。



「鳥居亜里沙はこの上なく愚かで性悪でどうしようもない人間だけど。今は少しだけ可哀想に思うよ。」
「あなたの娘に生まれてしまったあの子を、可哀想に思うよ」
「そうだよね。皆」

「そうだよね、ツナ」


鳥居はハッと目を見開き、振り返る。さっきまで少女を止めようとあたふたしていた少年は、今ではその動揺の片鱗すら見せずに落ち着き払っている。
「き、貴様は…!!!」

氷帝学園の制服に身を包み、怒りに燃えた瞳をこちらに向けるのは…。
グローブを嵌め、オレンジ色の炎を額に宿すその、少年は。―――

「ボンゴレ……!!!」
綱吉の拳が、鳥居の頬を力強く殴り飛ばした。

斬られた火蓋

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