「なまえ、お前は朝練は来るな」
「え。何で?」

翌日の登校中、私を迎えに来た跡部達は苦々しい表情で首を振った。リムジン登校には最近ようやく慣れて来たとこだ。

「昨日の夜はとんでもないこと聞かされて忘れてたが…、実は放課後また一悶着"でっちあげられて"な」
「そーそー。大変だったC〜」
「ウス…」
「……亜里沙か。今度はなんて?」

言いにくそうに一瞬口ごもった跡部。

「襲われたってよ」
「オソワレタ…」
「ああ。お前が『ザンザスが亜里沙にイラついて今にもブチ切れそうだ』って出て行った後、亜里沙が戻ってきたんだよ」
「あー……そんで?」
「Yシャツ泥まみれで、スカートもびりびりでビビったC〜。そんで泣きながら…えーと…『ザンザス先生に襲われた』って」
「…」

チャカッ

「落ち着け。早くしまえ。」
「なまえ顔めっちゃ怖いC−!!」
「教えて跡部。誰が誰を襲ったって?ねえ。もう一回言ってくれる?ねえ。跡部部長!」
「落ち着け。これやるから」

私は差し出されたオレンジジュースを一気に煽った。
「ヤケ酒だC−」というジローの呟きはスルーだ。怒りで沸騰した頭をオレンジで冷まし、私は携帯を取り出した。


「あ。もしもしルッス?あたしだけど。今どこ?……まじ??丁度良かった!各位置の25日17時30分くらいの映像で不審なの探してくれない?どう…ってまあ見れば一発だと思うけど。うん、うん、よろしくー」

それから数秒間、携帯を耳につけたまま黙っていたなまえ。

――ニヤ


「「「!!」」」

「やっぱりね。うん、朝から変なの見せちゃって悪いね。あそっか、そっち夜か。…うん、んー!さんきゅーね。チャオ」
通話を終えたなまえは跡部達にウィンクして見せた。

「暗がりでひとり服を破ってる転がりまわる亜里沙の映像入手成功」

「……想像したら幽霊より怖いね〜」
「…はあ。もっと早くにカメラでも何でも、設置しておくべきだったな」
「…」
「それにしてもザンザスに襲われたとか…自殺願望者なのかな彼女」
「これはザンザス先生に聞かせたら絶対だめなヤツだよね〜?」
「……もう遅い気もするがな」
「?」



跡部の呟きの理由が分かるのは、授業が始まってから数分経ってのことであった。




「あ、ベル、おはようござます」
「んー。…なんかオマエ不機嫌じゃね?」
「そんなことありませんよ」
「ヘー」
「…」
「…」
「……後で言います」
「しししっし。いーこ」

ベルが私の頭をわっしゃわしゃと撫でる。
教室で怯えたように震えながら人に囲まれる亜里沙を見て、朝からとても嫌な気持ちになった。しかしそれもあと数分で終わり。一限目は英語だからザンザスに会える。



ザワァァッ……!!



「「!!!」」私とベルは突如感じた鋭い殺気とどす黒いオーラに思いっきり体をビクつかせた。

(な、なにこの息も詰まりそうな殺気…)
(ししし!やっべ、俺逃げよかな)

ガラララ


「席につけドカス共」

機嫌最悪のザンザス、ご登場。

「…」
「もう遅い気もするがな…」
跡部の呟きが、頭をよぎった。

仏の顔も・・・

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