ザンザスの登場にわざとらしく肩をビクつかせたのは亜里沙。
ザンザスの登場に殺意のこもったオーラをカサ増しさせたのはクラスメイト達。

そして、ザンザスの登場に心の底から恐怖を覚えた、私とベル。


「…」私たちが固まっていると、真横のドアの外から誰かの視線を感じた。ザンザスから顔を反らしてそちらを向くと、僅かに開いたドアの隙間からこちらを覗いていたのはスクアーロだ。
しかも血だらけの。
――わたしは悟った

シンとした教室内で、ドアを開ける音は響く事だろう。私はそっと、その隙間を少しだけ広げた。
目線で「どうした」と尋ねると、スクアーロはさっと手をあげた。私とザンザスとスクアーロにしか通じないコミュニケーション手段、手話である。(※詳しくはMission Third『頭文字』で。)


「…」

さっさっさっ

(昨日・鳥居亜里沙・広めた・噂)

ちなみに、私たちの間では「鳥居亜里沙」は、右手の人差し指と親指で鼻を摘むと通じる。ちょっと嫌な顔をすればなお通じる。

さささっ

(ザンザス・襲う・鳥居亜里沙)


ここまではいいか?とOKサインをとりながら首をかしげるスクアーロ。
本当なら病院に行きたいだろうと思われるほどの出血にもかかわらず、私たちに現状把握させてくれようとするスクアーロに感謝する。私は頷いてOKを出した。


さっささ


(今朝・職員・会議)
私はこの時点で全身の血が下がるのが分かった。


さっさっさ

(音楽・担当・テニス部・顧問・男・キレる)

さっさっさ

(ザンザス・キレる・が・シカト・俺・否定)

さっさっさ

(会議・終わる)

さっ

(殴られる・俺)


フウと役目を果たしたかのように、汗ではなく血を拭うスクアーロ。私は彼に「サンキュー・おつかれ」と合図して、状況をもう一度脳内で整理した。
つまり。

亜里沙のでっち上げた噂が職員会議であがり、音楽担当兼テニス部顧問の「さかき」が抗議。(辞めさせるべきだとか警察に突き出すだとか言ったのだろう。だがしかしバット、校長はボンゴレが買収済みだ。)ザンザスはキレつつも暴力沙汰は起こさず、しかし無視を決め込み、かわりにスクアーロが事態を否定。その場はなんとか納まったが、可哀想なスクアーロはその身にザンザスの憤怒をぶつけられてしまったというわけだ。うん、本当におつかれ。


「ベル、分かりました?」
小声で尋ねる。
「わかんね。けど、なんかヤベー状況なのは分かる」
見てみ、とベルが顎でしゃくったのは教卓に足を投げ出すザンザスと、教卓の前にずらりと並ぶ亜里沙親衛隊男子数名。
私の全身からぶわーっと汗が出た。おいおいちみたち!なにするきだ!?


「先生、あんた、昨日自分がしたことわかってんのか?」
「俺達はあんたを先生だなんて認めねぇぞ!」
「もう学校全体がお前の敵だ。さっさと出てけ」

「…」

渡る世間は馬鹿ばかり!!
死に急ぐ気か!青年達よ!

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