スパーン、スパーン



「…」
ボールを打ち合う音だけがコートに響く。春色の風が二人の間を駆け抜けて、どこか気の抜けたぬるさが頬をかすめてゆく。
静かに打ち広がった、ある意味の沈黙の中で、宍戸が口を開く。




「…なあ、長太郎」



スパーン


「はい。…宍戸さん」
十分な間を空けて返事を返した鳳。




スパーン


「あいつさ」


スパーン



スパーン



「……


  俺達の事なんか 嫌いだろうな」



スパーン




「そうですね。


  きっと、大嫌いでしょうね」





スパーン










スパーン













「…なあ、長太郎」


「はい。…宍戸さん」


「………嫌われるってよぉ」


「はい」


「……痛ぇんだな」


「……はい」


「いてぇな」




鳳が打ち返さず、転がったボール。
それを視線で追いながら、宍戸の手からラケットが滑り落ちた。




――助けてもらいたくない。
――かまわないでほしい。

本当にそう思ってるなら、あんな顔はしねぇよな。


俺達を突き放しながらも、少しの喜びを噛み締めるみたいな、あんな泣きそうな顔。






「泣いてんなよ。長太郎、激ダサだぜ」
「すいません、…でも出てくるんです」

誰かさんの分まで流してるみたいですね、そう言って笑った長太郎。

遠くでチャイムの鳴るのが聞こえたが俺と長太郎は教室には戻らなかった。フェンスに寄り掛かかり、沈黙に身を委ねる。俺達は考えた。静かに。静かに。先入観も、主観もか殴り捨てて、考えたのだった。
不透明な。

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