「はあ、はあ、……っは、」

物陰で息を潜めながら私は腕時計を確認する。
――あいつら、いい加減飽きればいいのに!

一人の女の子を皆で守る友情ごっこなんて、三日続けば褒められたもんだと思っていたが、どうやらこの学校は異常らしい。
亜里沙が洋服やお洒落のアイテムのように身にまとう「友情」は、何週間経っても私を苦しめ続けている。(下手に手が出せない相手が、一番面倒臭いのだ!)
あと10分もすれば部活が始まる。
それまでにコートに行っていなければいけないというのに、下駄箱へ向かう途中彼らと鉢合わせてしまったのだ。


「おい!」
廊下の角を曲がってきた男子生徒が、私を見て声を張り上げた。
「!」
「いたぞ!こっちだ!」
「チッ…」

素早く反対方向へ身を翻すが、先回りされていた様子だ。
じりじりと詰められる距離。今回はどう掻い潜ろうかと思案していると、ふと、妙な気配に気が付いた。


「観念しろ…!」
「毎回殴られてんのに、まだわかんねぇみたいだな!」
「お前、Мなのか?ギャハハ」
「亜里沙泣かせたらどうなんのか、たーっぷり、教えてやるよ。」

「…」


男達の向こう側に、ジャージ姿の日吉の姿が見えた。予想外の人物は、私と目が合うと素早くそらし、背を向けて行ってしまった。
――助けてくれることは期待してなかったけど…。
まあいいや。
今はそれより先に、どうしても片付けなきゃならない問題がありそうだ。


「何ボケっとしてんだよ!!」
「気に障る女だぜッ」

「…」

私は振りかぶられた拳を見つめながら、それが第三者の大きな手のひらによって受け止められるのまでを眺めた。


「な…!!あ、あんたは」

「触んじゃねェ……ドカス」

その赤い相貌に睨みつけられ、私に殴りかかって来た生徒達は情けない声を上げて後ずさった。
殺意で満たされた視線を向けられたのは初めての事なのだろう。
尻尾を巻いて逃げだす、なんて表現が大よそ当てはまった姿に軽く笑って、私は彼を見上げた。


「助けてくれてありがとうございました」
「あんな雑魚相手にしてんじゃねェよ」
「しかたありませんよ。任務ですから」


不機嫌そうな顔が、ぐっと私に寄せられる。
部活開始の10分はとうに過ぎ去り、今この4階の渡り廊下にいるのは私達だけだった。


「ちょっと…何する気ですか、先生」
「決まってんだろ。抵抗してんじゃねぇよ」
「そりゃするよ」
「恋人だろうが」
「私とザンザスはれっきとした恋人だよ。でも、あなたと私は恋人じゃない」
「…」

「言ったでしょ?今は任務中だって。」
私は自分の腰にまわった腕を抓りながら、目の前にある鼻をぎゅむっとつまんだ。

「遊びならまたにしてくれる?


 骸…」
茜色の時間
「クフフ……おやおや、もうバレてしまいましたか」

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