タンクの裏へ回ろうとした時、激しい物音と一緒になまえが飛び出してきた。
どうやら蹴りを避けた拍子に、壁に立てかけてあったモップやバケツに引っかかって転んでしまったらしい。すぐさま立ち上がろうとするも、影から飛び出てきた男子のうちの一人に飛びかかられてしまった。

俺達は咄嗟の出来事に言葉を失ったが、激しく抵抗するなまえと、それを押さえつける男を見て自分がすべき事はすぐに悟った。

「おい、止せ!」
「もう止めてください!」

後ろで、信じられないような目をこちらに向けているはずの亜里沙達が、今はどうでもよかった。
俺と長太郎がそいつを止めに入ったが、男は中々なまえから離れなかった。
「、この!」
咄嗟に振り上げた拳。


「やめて!」
なまえの、透き通るような目が、俺に向いた。
――殴るのをとめた…!?何で、

「お前ら退けよ」
「!」

俺と長太郎を押し退けて、現れたのは金髪の転入生。なまえの味方。俺達の敵。
分かってた
のに、
どうしてか心から安堵した。


ソイツはあっと言う間になまえに跨ってた男を蹴り飛ばして、その他の奴らも一瞬で捻り上げてしまった。
唖然とする俺達なんか無視して、なまえを抱き起す。


「無事?」
「…何とか。」
「俺がトイレ言ってる間に拉致られるとか何?」
「すいません…」
「抵抗しろっつったろ」
「しましたよ?」
何事もなかったかのような顔で、スカートについたほこりを払うなまえ。

「腕力がたりなかっただけです」
「俺ナイフやったよな?」
「鞄の中です。捕まりたくないので」

そこで溜息を吐いたベルフェゴールが「ま、無事ならいーや」と諦めて、屋上の扉へと向かい始めた。
どうする事も出来ずにただ空気になっていた俺達に、なまえは向き合う。


「あなた達に助けてもらいたくなんてありません。私にかまわないでください」



それだけ言って、ベルフェゴールの後について行ってしまうなまえ。
「…」
そいつの強張った背中から俺は目が離せない。

不透明で、
「宍戸さん」

長太郎に袖を引かれて屋上を出る。

言葉の他に、あいつが心の中だけで続けた言葉がぼんやりと見えてきそうで、

無性に逃げたくなった。

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