私がコートへ辿り着いたころには、アップを終えた部員達が休憩を取っているところだった。 未だにグラウンドを走っている部員も大勢いるから、恐らく休んでいる彼らは先頭集団ということになる。勿論その中には、レギュラーのメンバーが揃っている。 タオルを首にかけた忍足が寄ってきて、さっそく嫌味を貰う。 「30分も遅刻とは、ええ度胸やな、自分」 「すいません」 「亜里沙見てみい」 忍足の目の先には、水道の近くで休んでいるメンバーをうちわで仰ぐ亜里沙の姿。 「さっきまではグラウンドで応援もしてたんやで。」 「…」 「どっかの誰かさんがおらんかったせいで、ストップウォッチの場所解らんくてタイム計れんかったって嘆いとんねん、あの子。謝ってきいや」 「…」 は? それはつまり、あれだ。 いつもタイム計るの私に任せっぱなしだから、3段目の一番端のロッカーの中に「常に」置いてあるストップウォッチの位置が分かんなかっただけでしょ。 グラウンド走ってるレギュラー「のみ」を応援した亜里沙が、 レギュラー全員走り終えたから、他の準レギュ部員ほっぽってここ来て、 そんでアフターケアとか銘打って媚び売りしてるって、それだけでしょ? 「何で謝らなきゃいけないんですか?」 忍足は眼鏡の奥の目を細めて、私の腕を掴んだ。 「…っっ」 「こっち、折れてんねやろ」 何で知ってんだクソ野郎。 私の心情を読み取ったらしい、忍足は嫌な笑みを浮かべた。 「そら知っとるわ」 「…、」 「折れるかな思て捻ったの、俺やし」 「おし、たり……!」 「ハ、そう怒りなや。ほんまに折れるとは思わんかってん…。まあ、お前の腕が折れようが、どうでもええんやけどな」 「……ッ」 私は痛さを堪えて、堪えて、笑ってやった。 忍足が絶句するのを見て、心がすっとする。 (やっぱりね) 「こんな傷、屁でもありません。……ご期待に沿えなくてすいません。私、 あなたが喜ぶ顔なんて、絶対しませんから」 不健全な悦び 「…」 (あいつの、) あいつの苦渋に満ちた、 痛みで歪んだ、 恐怖に揺れた、 そんな顔が、俺はどうしても見たいねん。 (誰の為に) んなもん 決まっとるやろ。 「全部、ぜんぶ、亜里沙の為や」 ×
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