中年の肉付きの良い男が、顔に下劣な笑みを浮かべて手を広げてみせた。何だそれ。まさか飛び込んで来いと?ボクのこの脂ぎった胸に飛び込んで来いと?殺すぞまったく。 「だが、君の周りには用心棒が何人かいるそうじゃないか。…昨日も君に会いに行ったんだけど、わけの分からない男に殴る蹴るの暴行を受けてね」 スクアーロだ。 「僕もほら、この様さ」 そう言って脛を見せられた。痣ができていた。殺すぞまったく。 「でもね、ボクはキミを得る為ならどんな傷だって厭わないつもりだ」 「何だこいつ」 真剣な表情で言った跡部に激しく同意したい。 「気持ち悪いC〜」 そして素直すぎるジローちゃん。 「でもやっぱり早くキミが欲しいから、ボクもこうして武装して来たってわけさ」 男の後ろに控えていた男達が一斉にニヤニヤと笑い始める。 跡部と樺地が私の前に立った。ジローは私の横に立ち、きゅっと手を握ってくれた。 ほとんど道を塞いでいる私達のただならぬ雰囲気に、通行人たちは怯えながらも足早に避けていく。 「さあ、観念してボクの胸に」 「黙れドカス野郎。…あーあー、こういうの嫌いなんだよね」 「…なまえ?」 ジローの手をそっとほどいて跡部達の間を割る。かけていた鞄を跡部に押し付け、私は首をひねりながら前に出た。 「なまえ、何する気だ?」 「あんまり可愛くない事」 「はぁ?」 私は口を尖らせて跡部を見上げる。 「…目つぶっててほしーな、なんて」 「出来るわけねぇだろ!」 「だよねー」 「なまえ?危ないC−!」 「大丈夫だよ、ジローちゃん。だって私、強いもん」 「…跡部さん」 樺地の呼びかけに顔を向けた跡部。一瞬で顔をひきつらせる。 どうやら反対側からも敵の応援が来たらしい。道は完璧に塞いでしまった。 「中学生相手に、随分用心深いんだな」 こんな状況でも余裕ぶって見せる跡部は中々の度胸の持ち主だと思う。馬鹿にされているとも気付かないほど馬鹿な中年デブは嬉しそうに微笑んだ。 「念には念を入れる主義なんだよ。さあ、始め」 「ギャッ!」「グエ」「うぎゃああ」 「…?」 前方の敵陣。奥の方から悲鳴が上がり、空にポンポンと人が投げ出されていく。 「う゛おぉお゛い!!何だこの人混みはぁ…邪魔くせぇぞぉ!」 「ししし!どっかの大道芸人にでも群がってんじゃね?」 聞き覚えがありまくる声はだんだん近づいてきて、やがて中年男の脇にぬっと顔を出したのは(やはり)今にもキレそうなスクアーロだった。 「なまえ?何でテメェまだこんなとこにいやがんだぁ。朝練はどうしたぁ!」 「ご覧の通り足止め食ってる」 「あ、なまえじゃん。何オマエ芸すんの?」 「しないよアホか」 「ベル、スクアーロ先生、おはよー」 「先生じゃねぇぞぉ!!」 「や、今は先生だから。…でも二人ともちょっと早くない?」 「「…」」 「何故黙る」 ベルがそっぽを向いて口笛を吹き出した。怪しすぎて大変だ。嘘下手か! 「昨日なまえ犯しかけた奴らに制裁下しにいく、ってとこだろ」 跡部の言葉に「なぜそれを!」という表情のスクアーロ。お前ら揃って顔に出過ぎだ。 ベルは隠す事を諦めたらしい。機嫌よさげに笑っている。 「しっしし!中々頭回るじゃんオマエ」 「俺もそのつもりだったからな。協力は惜しまねぇぜ?」 「ちょ、跡部まで何言ってんの!」 「お、お前は昨日の暴力男!」 「誰だぁテメェ」 スクアーロを指差した中年男だったが、スクアーロの方はまったく記憶にないらしい。そりゃそうだ。 「…丁度いいじゃないか!昨日の借りも返させてもらうよ」 「何の話だぁ」 「スク、ベル、30秒でいける?」 私の言葉の意味を解した二人は、跡部達に背を向けて体勢を整えた。 「こんな雑魚の寄せ集め10秒かかんねって」 「殺しちゃダメだよ」 「じゃあ20だぁ!」 「お前ら!この人数だぞ!?俺も、」 「しっししし。黙ってろって、俺達に心配とかいらねーの」 「だが」 「跡部」 中年男の一声を合図に、男達が一斉に飛びかかって来た。 「樺地、ジロー。……目をつぶらないなら、ちゃんと見ててほしい。 あたし達が ヴァリアーだよ!」 Look at... (君らには見せたかったの。) ×
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