「は?襲われた時の対処法?」

ヴァリアー邸談話室のソファで漫画を読みふけっていたベル。その向いに腰かけた私は「そ」と軽く相槌を打った。
少し離れたところで剣を磨いていたスクアーロも怪訝そうにこちらを向いた。

「そんなのヤられる前に殺っちまえば済む話じゃね?」
「過激な子!…じゃあ相手を殺しちゃいけない状況下なら?」
「その前に、お前が捕まる事なんてあんのかぁ?」
「+私が凄い疲労してて気配に疎くなってるって言う設定で。ハイ、突然人の来ない部屋に連れ込まれました」

しし、と笑ったベルが漫画を置く。
暇潰しにはもってこいの話題だったらしい。


「敵は?」
「4、5人。部屋の外に見張りが1人」
「そんくらいなら余裕じゃね?」
「武器に触れないように腕は縛られています」
「普通の女なら絶望的だなぁ」

ベルが思いついたように指を鳴らした。
「ドアを蹴破ってボスが登場!全員蜂の巣」
「や、そういうラブコメ的展開はいいから。実際来てくれたらやばいけど」
「んじゃ王子が現れて全員サボテン」
「いいって」
「スクアーロが囮」
「もう、真面目に考えてよね!」
「しっししし」
「う゛お゛ぉ゛おい!!俺が囮ってどういう意味だぁ!!」


スクアーロが落ち着いたとこで会話再開。

「じゃ、王子が教えてやるよ。しっしし……まずは」







無造作にぶら下がるリボン。シャツのボタンはすでにいくつか引きちぎられてしまった。
男達が手足を掴む手に力が入り、正直痛い。だが、早く進めなければ。気持ち悪くて仕方がない。

「…ねぇ」
「あぁ?」
「どいてくれません?」
「はっ…! ?阿呆かお前。ンな事出来るわけねぇだろ」
「どうせ暴れるんだろ!?」
「違いますよ」
「何がちげぇんだよ?」


「妖艶な笑みを浮かべて、トドメの一言。」
「なぬ?呼んだか」
「誰も呼んでねーよムッツリ」
「失せろぉ!!」
「ぐふっ」
「…で、そんな一言で本当に大丈夫なの?成功率は?」
「1パーくらいじゃねぇかぁ?」
「マジかよ!完全にヴァリアー請け負っちゃダメなレベルじゃん!というか、よーえんな笑みってどうやんの?」
「ボスに聞けよ」


成功する確率は、ベルも言っていた通り低い。だが、悪運が強いというのも、今までの経験上否定はできなかった。
自分の悪運にかけるしかないか。
私は私に馬乗りになっている男に声をかけた。

「…どいてくれたら、気持ちいいコトしてあげますよ」
「きもちいい…事?」
「って、何だよ」
「あれ…わかりません、か?……くすっ」

果たして自分は妖艶な笑みを浮かべられているのだろうか。目の前に鏡がある訳でもないので、心配だ。
男の、生唾を飲み込む音が聞こえた。

「本当か…?」
男がニヤついた顔で聞いてくる。自分は悪運強いな。と改めて思ってしまう。相手はこちらの作戦に掛かった様子。演技を続行しなければ。
「だから…ね? 放してくれなきゃ、何も出来ません…」
「…分かった。オイ、下りろ」
「了解。へへっ、二番俺な」
「じゃあ俺三ば〜ん」

手を掴んでいる男も、足を掴んでいる男も、掛かっている。手足を掴む力がどんどん緩み、遂に放れた。
私はすっと体を起こした。

「自由になったら、こっちのもんだ」
「なまえなら足だけでも人殺せそーだしな」
「そりゃ無理だよ!」
「いいかぁ?男の急所はなぁ」
「ちょ、スクアーロ!」

思いっきり体を仰け反らせて反動で立ち上がる。
良い位置にあった顎を爪先で蹴り上げ、別の男のこめかみに膝をめり込ませた。…うん、死んでないよね?
「な、ってめ」
近付いて来た男の顔面に頭突きをお見舞いし、もう一人には渾身の蹴りを鳩尾に食らわせた。奴らが起き上がる前に、と後ろ手に鍵を開ける。

「外で見張りしてる奴らは機嫌悪くしてるだろうから」
「なんで?」
「自分らだけ除け者だからだろぉ」
「ああ」
「で、見張りっつってもほぼ立ってるだけ。注意力超散漫状態」
「で?」
「カギは内側からだから、カギを開けて、思いっきりドアを開ける!!しっししし」


カギを開け、思いっきりドアを押すと ガン。と何かが強くぶつかった。どうやらそれは見張りをしていた男らしく、頭に直撃して気絶しているようだ。

「おぉ…ラッキー」

「で、敵が追っかけてくる前に逃亡」
「おー!」
「…ま、そんな思い通りにはいかねぇだろうけどなぁ」
「何さスクアーロ、散々乗っといて」
「それ以前に捕まってんじゃねえよ、ドカス」
「え、ザ、ザンザス・・・・いつから」
「ししし!結構ずっといたぜ」
「言えし!」
「妖艶な笑み、だったか。教えてやる。来い」
「ちょっ、ザンザス離して下ろしてまだ昼だよギャー!」


「…私ってホント悪運強いな」
迫りくる足音を聞きながら、私はとにかく廊下を駆け抜けたのだった。

予習済みの猛攻
ほんとありがとベル

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