ミドリちゃんと別れて、私は階段を上った。ついでにカメラの点検をしていこうという魂胆だ。
何か異常があればヴァリアーから連絡が入るから大丈夫だとは思うんだけど。

廊下を歩いていると、少し先の教室から制服をピシッと着こなした真面目そうな青年が顔を出した。キョロキョロと辺りを見回し、何かを探しているようだ。
「あ!」
私と目が合うと、ぱっと笑みを浮かべた。

「すいませーん!この辺で榊先生見ませんでしたか?」
「(サカキ…?だれだっけそれ)…いいえ」
「そうっすか。……はあ」
「どうかしたんですか?」
「いや、何かテレビ動かなくなっちゃって。さっき先生に頼んだんスけど、中々来ないんですよね」
「…へえ」

彼が出てきた部屋は、私がカメラを設置した場所の一つだった。
(変に弄られるとまずいな)
カメラはスピーカーの中に仕掛けられているため見つかる心配はなさそうだが、念のためだ。

「手伝います」
「……いや、悪いっすよ」
「得意ですから」

彼を押しやって部屋の中に入る。その際に彼のブレザーから煙草の香りがして、真面目なのは上っ面だけみたいだと仮説を立てる。それと同時に両サイドからグンッと腕を引かれた。
折れた左腕に激痛が走る。

「!!」


「おい隆二ぃ、何だよコイツ、自分から入ってきてんじゃん」
「話聞こえたぜー。連れ込む手間省けたな、ヒヒッ」
バッと振り返ると、例の男子生徒が可笑しそうに喉を鳴らして笑っていた。ガチャンと鍵をかける音に続き、伸びてきた手が私の顎を捉えた。

「ほーんと、優しーんスね。苗字なまえセンパイ」


あ た し の、 ド ア ホ


「…騙したんですか」
言いつつ視線でスピーカーの位置を確認する。駄目だ、死角。
(これじゃあザンザス達に現状が知らされない…!)

「あんたもアイツに目をつけられるとか、可哀想だよなァ」
「…アイツ」

――裏ファンクラブ。
さっきの言葉が頭に浮かんだが、どうやら彼らは違うらしい。

「サリアだよ、サ、リ、ア。青学の」
「…」
それ100%亜里沙だろ。
騙されてますよあなた。

私はそこでようやく、この男が昨日の亜里沙の電話相手だと理解した。
思わず頭を抱えたくなる。
(まさかこんな早くしかけてくるとは…)
あーあ、事前に知れてたのにミスったわ。

病室での亜里沙の言動はすべてこちらに報告されていたが、昨日はそれを聞いてブチ切れたザンザスをなだめるのに忙しくて、この事実自体をすっかり忘れてた。やばい。殺されるかも…ザンザスに。

「離してください」

ネクタイを緩めながら、リュージと呼ばれる男が私の前にまわってきた。
そうこうする間に背中で一括りに縛られる両腕。やばいやばいやばい!冷や汗が頬を伝った。

「しかしアンタ、ほんとに美人だな」
「大声を出しますよ」
「ハハッ、出してみろって」

私の腕を縛っていた男が余裕そうに笑い声を上げる。
意識を定めると、部屋の外にも数人見張りがいるのが分かった。

「誰も助けになんかこねーよ」
「例え来たとしても、アリサ先輩苛めてるお前なんか放置に決まってんだろ」
「むしろ協力すっかもな、ヒヒッ」
「…さ。ショータイムだ」

絶体絶命
腐れ野郎共

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