「チッ」舌打ちをして窓の外を見る。空はすっかり夕焼け色だ。
「宍戸さん、手が止まってますよ」
「分かってるっつの」
「…」
「…あああ!無理だ!俺こういうの苦手なんだよ!」
「それは知ってますけど」

向い合せた机の上で宍戸と鳳は用紙と睨めっこ。ジャージにも着替え、いつでも部活に行ける準備は万端なのだが、いかんせん委員会の仕事が終わらない。
苦笑しつつ黙々と仕事を進める鳳の向かいで、宍戸は机に突っ伏していた。


「さあ、早く終わらせて練習に行きましょう!」
「…ああ」
終わる気がしねぇ、と思いつつも、鳳の言葉に顔を上げてペンを持つ。
何から書き始めるかと吟味し始めたところで、開け放たれたままの教室のドアからなまえが飛び込んで来た。


「なっ…!!」
「苗字先輩!?」

二人は突然の現れたなまえのその姿に、思わず目を剥いた。
なまえは二人を見ると「しまった」と顔を歪ませ、しかし教室を出るに出れず、迷った末に二人のいる場所に駆け寄った。

「な、お前、何だその格好」
「かくまって」

窓側に二つ並んだ机と、この男二人の影なら見つかるまい。
二人が気を利かせれば、の話だが。

屈みこんだなまえに未だ驚きつつも、その目を逸らしたくなるような姿と、廊下から聞こえてくる男達の声や足音を聞けば、大体の予想は吐く。
鳳も同じようで、上げかけた腰をガタンと下ろした。

数秒後、男達がバタバタと教室の前を通る。
そのうちの一人が入り口から中を覗いた。

「すんません!ここに女が来ませんでしたか??」
「…来てません」
「あ!確かこのクラスの奴だと思うんですけど、銀髪の転校せ、」
「来てねえっつってんだろ!」

宍戸に怒鳴りつけられ、男は身を縮めると「すいません!」と謝って立ち去った。
腰を上げた鳳が、前後のドアの鍵とロールスクリーンを下ろす。なまえは長い息を吐き、ゆっくりと腰を上げた。

――ここに来るのは賭けだった。
二人が今日委員会でこの教室を使うのは知っていたが、この状況でここに飛び込むのはとんでもない賭けだ。昨日、私は彼らにも暴行を振るわれたのだから。

「……大丈夫、か?」
宍戸が思わず確認してしまったのも無理はない。

「…これ、ほどいて」
後ろを向いて腕を見せると、窓越しに二人の歪んだ表情が伺えた。そんなに、この格好は衝撃的だろうか。
だが、もう、限界だった。

「長太郎、ハサミあるか」
「っぅ」
「、わり」
「あ、あります。宍戸さん」
「ああ」

私が痛がったのが分かったのだろう、体に触らないように丁寧に紐を切ってくれている。
「…」
折れた腕の痛みに耐える半面で、これは仕掛け時だと察した。
すぐさま頭の中で作戦を組み立てる。正直、昨日のこともあって自信はあまりない。
それでも、やってみる価値はあるだろう。

「……ほどけたぞ」
「、どうも」

やっと手が自由になった。よくよく考えれば、自分はよく両手を縛られた状態で走れたものだ。アドレナリン効果とかいうやつだろうか。一瞬ぐらりと体をよろめかせて、慌てた鳳に支えられた。

「っ、大丈夫ですか?」
「…平気。じゃ」

助かりました。と部屋から出るため、扉へと歩いていく。
君等なら、引き止めてくれるよね。

「ちょ…。待て」
「いだぁっ」
ヤバ、素で言っちゃった。
しかし性懲りもなく私の手を引いて呼び止めた宍戸は、素直に手を離した。

「…何です?」
「……ンな格好で行くつもりかよ」
「それが?」
「普通行きませんよ!」

ごもっとも。いくら私でも、こんな格好でうろつきたくはない。
さて、名誉挽回と行きますか。

「大丈夫、です」

タクトを振り上げろ

top
×