「あっちー」
ジャケットを脱いで呟くベルの仕草一つ一つに、言葉の一言一句に、皆が注目する。
ワイシャツの袖をまくりながら、ベルは続けた。

「あんまさ、俺のこと失望させないでほしんだよね」

向日の腕の中で亜里沙がニヤリと笑うのが分かった。

「オマエ、自分で分かってっと思うけど最低だぜ」
「…聞いて、ベル…私」
「黙れよ」
「っ」

まるでどこかの誰かさんを彷彿させるような傲慢な態度で、机に脚を投げ出したベル。
手を頭の後ろで組んで、軽い調子で言葉を繋ぐ。

「…ししし!でも王子、腹黒い女って嫌いじゃねーから、お願いするんだったら仲良くしてやってもいーよ」


その発言に、亜里沙の取り巻きの女子達が顔を青くした。

「ちょ、っと!ベル君??」
「こいつと仲良くするなんて冗談でしょ!」
「ブスは黙ってろって」
「「!!!」」

ブス呼ばわりされた子達はショックで言葉も出ないらしい。
ざまーみろ、なんて、そんなふうに思っているのはどこかのお姫サマも同じだろうけど。
「もお…急にどぉしたの…?がっくん」
「…いや」
「?」

向日の胸から離れた亜里沙は、教室の状況を見て首をかしげる。
「すっげ怪我してんじゃん」

「…ベル君?」

「王子鈍い方じゃねーし?つーか、これ見たらどっちが悪者か一目瞭然じゃね?」

クラスメイト達も余裕を取り戻してきたのか、私がベルに突き放されているのを楽しげに傍観している。ニヤニヤした笑みも、クスクス聞こえる声も、耳障りでならない。
私は膝の上に置いた両手をきつく握った。

「それでもまだ被害者ぶるとか神経イカレてるとしか思えねーから」

「……私はやってません」

「いい加減聞き飽きたっつの」

「…、それでも」

「もう止めろよ。無駄だから」

周りからも野次が飛ぶ。私は口を閉ざした。
ストン、と足を下ろして立ち上がったベルは、困惑する亜里沙の傍へ寄る。「笑かすよなー…自分の事どんだけかわいーと思ってるかしらねーけど、俺の近くにもっとイイのいんだよね」
「ベル、くん」

僅かに顔を赤く染めた亜里沙。ベルはいつものように、白い歯を見せてしししっと笑った。
「オ、オイ!」
亜里沙の顎を指先ですくい、顔を近づけるベル。
隣で向日が慌てたように声をかける。
亜里沙は本気で顔を赤く染めていた。
「しっしし、ブッサイクー」
「……?」

誰もが聞き間違いだと思っただろう。
ぱっと亜里沙から離れたベルは、俯いていた私の腕をひっぱって立たせると、私を彼女の前へ押し出した。

「なまえがやってないって?言われなくても知ってっから。だからさ、もうこいつらに理解してもらわなくてもよくね?」

「ベ、ベルく…何言って」

「ほーんと腹黒い女って、簡単に股開く女と同じくらい扱い易いよな。……ま、さっきはああ言ったけど」

ベルの腕が私の首に回されたかと思うと、耳のすぐ脇で独特の笑い声が聞こえた。
亜里沙の驚愕の表情と言ったら、軽く今までのブリッコがバレるんじゃないかと心配しちゃうくらいのもんだった。

「目の前に、綺麗で、可愛くて、優しい本物の姫いたらさ」
指折り数えていたベルが肩をすくめる。

「そりゃもう迷う余地ねーって。しししっ」

見てもいないのに、ベルの口元が弧を描くのが分かった。
私は溜息を吐いて、次に彼の口から出てくるであろう台詞を心の中で重ねてみるのだ。

「――――だって俺、王子だもん」

Prince The Ripper
騙された?っしし、バーカ、お前となまえ天秤にかけるとかボスに殺されるっつーの

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