クラスの一人に携帯を見せられた。目と鼻の先に押し付けられた液晶画面にピントを合わすべく、眉を寄せつつも距離を置く。

「…なんです?」
「そりゃこっちの台詞だ。…何だよコレ?」

ニヤニヤと、今朝の男達を彷彿させるような笑顔で尋ねてきた男子生徒。
さっき登校してきたベルも、近くにいた宍戸も、こちらを向く。
私は液晶画面を一読し、あまりのくだらなさに読んでいた本に視線を戻す。それが気にくわなかったらしい、彼はそれを取り上げて遠くの床に投げ捨てた。

「シカトしてんじゃねーよ」
「…」
「これ、お前だろ?」


黒々とした、いかにもな背景と、ピンク色の文字で綴ってあるサイトタイトルは『家出中学生』。
制服姿の女子中学生が、歳に似合わぬ豊満な胸をアピールするように前で手を組んでいる写真がタイトルの一番近くに貼られており、脇のふきだしには名前から始まる個人情報と「お家に帰りたくない。一晩だけでも泊めて」の文字。語尾にはハートが1、2、3。


彼は画面をスクロールして、とある写メの場所で止めた。
「…」
「――氷帝学園3年苗字なまえ。彼氏&セフレ随時募集中(笑)いつも一人で寂しいです、私のこと見かけたら襲ってね★待ってまーす!」

やっぱりこういうオチかよ。

「とんだ淫乱女だぜ」
「売春とか普通にヒクんだけど」
「どんだけ金ほしーんだっつの」
「ホント堕ちるとこまで落ちてるよな、オマエ」


「いくつか…いいですか?」

私の反応がさぞ意外だったのだろう。
普通の少女はこんな時、それが真実ならば真っ青になって慌てふためくだろうし、誤解なのであれば、この仕打ちに耐え切れず泣き出してしまうはずだ。

「ひとつ、」

落ち着き払った私は、人差し指をたてた。

「私は家族がいるのでいつも一人ではありません、寂しいと思ったことなどありません」
今や跡部達も味方になってくれて、ますます「一人」とは疎遠になるばかり。


「二つ。彼氏なら居ます」
「なっ」
「イタリアに…ですけどね。」

少しだけパチこかせていただこう。
私の恋人はマフィアの暗殺部隊のボスで、死ぬほどかっこよくて…。こんなサイトに頼って自分の品格落としてる場合じゃないわけ。そんなことしてる余裕ないわけ。


「三つ、この写真を見てください。この時の私はカメラ目線には見えないはずです」
付属されていた写真は他の写真に比べると、どう考えても露出が少ない。明らかに隠し撮りふうである。
「…わ、わざとって可能性も」
「こんだけあけすけな文章書いて誘ってる女が、そんな小細工すると思いますか?」
私はたてた人差し指を裏返して、彼の携帯画面を爪でコツコツ、と叩く。


「最後に

 ここで私を見つけたということは、あなた、もしかしてここの常連さん?」


私の質問に彼は真っ赤になって殴りかかってきた。
横から伸びたベルの手が、その拳をパシリと受け止める。

「なっ」

「しっししし…あのさ、王子煩いの嫌いなんだよねー」

険悪な自習

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