お屋敷を出る前にザンザスに思い切りハグをしてきた。ザンザスは何も言わず私の前髪を上げると、額に唇を押し当てる。

「気をつけろ」

「うん」
その言葉にこもる意味を十分に理解しながら、私は玄関を開けた。

「あ」
「やっと来たな」
家の前には何故か跡部達3人が立っていた。

「待ってたCー!おはようなまえ!」
「うす」
「え、な…なんで」
「アーン?昨日約束したはずだが…まさかもう忘れたのか?」
「……ふふ!ありがとう」
「…行くぞ。遅れる」

照れたふうに歩き出した跡部。かわいいやつめ。
私がその背中に言葉を投げかけようとした時、身体を悪寒が駆け抜けた。振り返ると、電柱の陰からこちらを伺っている男の姿。

「……」

ニタリ、と男の口元が上ずる。

(…やばい、居所が)
携帯を取り出した瞬間、少し前を歩いていた跡部達が足を止める。

「誰だ?」
「へへへ…アンタらに用はないさ。」
「何だと…?」
「オレが用があんのは彼女だよ」

帽子を目深に被ったサングラスの男は、跡部達を押し退けて私の前に来た。
「2万でどうだい?」
「は」

ニマンデドウダイ?

「だから、2万だよ」
「…」
「でも君くらい上玉だったら…そうだな、3万出しても」
「ちょっと待って何の話?」

鼻息荒く値を上げ始めた男は、そりゃ、とニヤニヤしながら言った。
「いくらで僕とヤってくれ」
男の言葉はそれ以上続かなかった。
跡部の回し蹴りと私の右フックが炸裂したからだ。
左右からの強烈な攻撃に、男は泡を吹いて地に伏した。
私はしばらくショックで言葉が出せなかった。さ、さんまん……。こいつ私と3万でヤろうとしてたの…??


「は…はは…ジロー顔真っ青だよ」
「なまえは青越して白いC−…」
「どうなってやがる……樺地!」
「!」

後ろから私に抱きつこうとしてきた男を、樺地が裏拳で沈めてくれた。お、おう…君ら中々やるな。
「走ろう!」
私が言葉と同時に駆け出すと、三人もハイペースでついて来た。

「う、うわぁ!なんかいっぱい来てるC−!」
「チッ」

振り返ったジローが更に青くなって叫ぶ。
あのドグソ亜里沙め!
一般人(中年デブ・キモ男・オタクっぽい奴・ニキビ男その他もろもろ)をそそのかすとか悪質すぎて笑えない。おおかた、どっかの出会い系サイトに顔写真でも載せられたのだろう。

「あああああ腹立つぅうう」
「落ち着けバカ!無駄に体力消費すんな」
「だって…もう!プライバシーの侵害じゃないっ、痛っで」
「チッ…(普通すぎて忘れてたぜ)樺地!こいつを担げ」
「ウス」
「え?え、うわぁあえええ」

突然地面が遠ざかった。
担げ、と言われてお姫様だっこをする樺地はとても紳士で、腕を庇ってくれているのも分かる。樺地。今ジーンときてます。
(でも中学生に運ばれる私って…)

「じ、自分ではしむぐっ」
「静かにしてないと舌噛むぞ」
「(いってぇぇ)」
「えー!Eーな!樺ちゃんおれも」
「ジロー!」
「ちぇ」
「う、あ、ありがとう…樺地」
「ウス」

首を伸ばして後ろを見ると、体力のなさそうな男達は随分と引き離されていた。
私は携帯でスクアーロを呼び出す。


『う゛お゛ぉ「煩い!」…何だぁ!?』
「屋敷の場所われた!」
『んだとぉ!?』
「これからそこらへんに変態共群がってくると思うから、殺さない程度に脅しふっかけといて!」
『レヴィとオカマならまだイタリアだぞぉ!』
「あいつらじゃないよ!後でチクってやる!じゃーね」『う゛お』ブツッ

氷帝の校門に飛び込んだ私たち。

「はあ、は……」
「つ、つかれたC−!」
「何だったんだ…はァ、っ」
「あ…ありがとう樺地!大丈夫?」
「ウ、ス…」

跡部達が息を整えるのを、申し訳なく思いながら待つ。
しばらくして、眉を寄せて考え込んでいる様子の跡部が口を開いた。

「………なまえ、帰りも待ってろ。」
「え?」
「また襲われたら…いや、8割の確率でまた襲ってくるだろうからな」
「でも」
「帰りはうちの車を呼ぶ。言っとくが、これは強制だ」
「遠慮なんてしなくてE−よ!俺達も行くし」
「アーン?お前も乗せてくとは言ってねえ」
「Eーじゃん、だっておれベルとゲームする約束しちゃったCー」

(ベル、いつの間に。)
跡部の真剣なまなざしを受けて、私は頷いた。

「じゃあ、宜しく頼むわ」
「ああ」
跡部が安堵の息を吐くのが分かった。
予想以上に、彼らには負担をかけてしまいそうだ。
…それにしても亜里沙のやつ

悪手
そろそろプッチンいきそうだよ

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