ぱちり。

目が覚めて真っ先に目に入ったのは高い天井。これはお屋敷の天井だ。うん。次いで、こちらを心配そうに見下ろすジローとベルと跡部と樺地。

「…」

何だこれ。


私はもう一度目を閉じて良く考えた。確かまんまと亜里沙の策略にはまっちゃったんだよね。そんで忍足達に連行されてボコボコにされて、……覚えてない。そっからどうなったんだか分からない。けど、とりあえず今屋敷にいるから、誰かしら助けてくれたんだろうな。

頭で事態を収拾して、異様にお腹が減っている事に気付いた。
ぱっと瞼を上げて見下ろす4人に尋ねた。

「あたし何食くいっぱぐれた?」

跡部とベルがずるっとフレームアウトし、ジローは涙目で私に飛びついて来た。

「よかったC-!いつものなまえだC−!!」
「ぎやぁあぁぁ…!!体中がいたひぃい…っ」
「王子の心配返してくんね?」
「ちょ、ベル、ナイフ(柄が)刺さってる!」
「しししっ」

脱力して椅子に腰を下ろした跡部、その傍らに立つ樺地。そして私の手を握って離さないジロー。三人の真っ赤に腫れた右頬に、私の頭は遅れて反応する。
「ちょ、ねえそれ!!、づっ」
「勢いよく起き上がんなよ。言っとくけどお前、左腕折れてっから」
「あ。やっぱり?痛いと思った、じゃない!……それ、どうしたの?」

跡部は「ああ」と事も無さげにそこを撫でた。

「殴られた」
「!!…やっぱり」
あの後何があったか覚えてないけど、もしかしたら忍足達と殴り合いのケンカになったのかも。
顔を俯かせた私の頭の上から、ジローの明るい声が降ってくる。

「あ、なまえ勘違いしてるC−!」
「え…勘違い?」
「ん?ああ、殴られたのは、銀髪のロン毛男にだ」

「銀髪ロン毛………スクアーロ!!?」








「何でコイツ等がここに居んだぁ!!?」ベルから連絡を受け、屋敷に戻ってきたスクアーロの第一声がそれだ。
応接室でなまえの治療が終わるのを待っていたジロー達が腰を上げた。
テーブルに行儀悪く足を乗せたベルは、そちらを見もせず軽くいなした。

「るせーよ、スクアーロ」
「んだとぉ!?」
「こいつらがなまえの味方だからだろ。考えて分かれよカス鮫。しししっ」
「、」

スクアーロの額にビキッと青筋が浮かんだが、それも数秒。
目の前で頭を下げる跡部と樺地を見て、今度はぎゅっと眉根を寄せた。


「俺達は真実に気付くのが遅すぎた。事態がここまで大きくなって、結果、アイツをまた傷付けた。…あんた達にも、申し訳ないと…思ってる。」

跡部はなまえの「本当の仲間」全員に、こうして頭を下げていくつもりだった。
プライドなどとうに捨てた。自分が犯した過ちを償うには、こうする他にもうどうしようもないと分かっていたからだ。

「……言いてぇ事はそれだけか」

スクアーロの唇が動いた。
「う゛お゛ぉお゛い!!!」
途端に、耳をつんざく様な濁音が室内に響く。

「それで償ったつもりかぁ、あ゛ぁ!?ざけんじゃねえ!なまえの痛みがどんなもんか、テメェ等分かってんのかあ、お゛い!そんなのはテメェ等の自己満足だ!糞でも食らいやがれぇ!」
「、」
「いいかぁ!!本当に悪ィと思ってんなら態度で示せ!!」

スクアーロに胸ぐらを掴まれながら、跡部ははっと顔を上げた。
「明日から、俺達の目の届かねぇとこでは、てめぇ等がアイツを護れ!!――そんくらいの事をしてみせろぉ!!」

「…――――分かってる!」

跡部の目に、再び雄々しく輝きが宿る。

「もう二度と傷付けさせねぇ…。アイツ等の目を覚ますのは、部長であるこの俺の役目だ!!」
「…言うじゃねェかぁ、小僧!」

今朝、なまえに向けたものと同じ決意のこもった瞳。揺るぎないそれを確認してスクアーロは心の中でほっと安堵した。
(奴らのトップがこの調子なら終わりも近ぇな。…上手くいけばの話だが)



「―――…よし、説教は終わりだぁ。歯ァ食いしばれ!!」
「は?」

ドカッ

「テメェもだぁ!!」
「うす、ッ」

バキッ

「これはなまえの分だぁ、有難く受け取れ!」
「あ、あの〜スクアーロ先生!」
「あ゛ぁ!?誰が先生だあ!」
「先生じゃん!ねえ、俺の事も殴ってよ」
「…理由は」

「俺も護れなかったから」

ジローの目は真剣だった。スクアーロはフンと笑い頷いた。

「イイ度胸だぁ」

バキッ

こうして、跡部、樺地、ジローの三人は頬にスクアーロの熱意を受け、一段と身を引き締める結果となったのだった。
制裁の拳

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