ぽかーん。
「…」
三人の表情を言い表すなら正にそれ。予測済みの反応に、私は苦笑する。

「マ…マフィア?」
「なまえが…か!?」
「こいつだけじゃねーっつの」
ベルが跡部とジローの肩に腕を回して、挑発的に笑う。

「改めまして、自己紹介でもしましょうか。」

私はベッドから飛び下りた。
「お、おい、動くな。折れてんだぞ」
「大丈夫だって!こんなの日常茶飯事だもん」

誰かの靴跡がついていたスカートを払いながらクローゼットを開けた。
中にかけてあるのは見慣れたヴァリアーの隊服。(日本に来た時に着てきたのだ。)
私はそれを華麗にばさっと羽織り
「いってぇええ!」
「ししし。馬鹿だろ」
泣く泣く右腕だけを通して彼らの前に仁王立ちしてみせる。


「イタリア最強マフィア…ボンゴレファミリー」
「!!」
彼らとて名前くらい聞いたことがあるだろう。
跡部なんかは尚更だ。


「9代目直属独立暗殺部隊ヴァリアー幹部、苗字なまえ。よろしく!」

危機として手を出しだしたが、三人はさっきよりも驚愕した表情をしていた。

が、そこは流石と言わざるを得まい。
一番最初に我に返った跡部が私の手を握る。ショックから抜け出したのか、ニヤリと口元を持ち上げながら「俺様を騙したな」と尋ねてくる。怒ってはいないらしい。
「ちょっとだけね」
「やられたぜ」
「なまえー!」「ぐふっ」

お腹に飛びついてきたジロー。振動で左腕が痛いのと、恐らく大きい痣があるであろう脇腹がとても痛い。だけどジローの目はこれまでにないほどキラキラと輝いていた。

「なまえってヒットマンだったんだ!すげえC−!!」
「そうなの。…隠しててごめんね、ジロー」
「全然いいCー!ね!ね!なまえって強いの!?」
「あったりまえよー!」
「へー!へー!かっけー」
「あんまなまえにくっつくなっての。殺されっから」
「ぐえっ」
ベルに襟首を引っ張られて遠退くジロー。「…」「樺地君…」「うす」差し出された大きい手に応じる。樺地君が私の居場所を彼らに知らせてくれたらしい。
「ありがとうね」
「…すいませんでした」
「ふふ、もういいって」
そんな私達の様子を見ていた跡部。

「…おまえ、その方がいいな」
「え?」
「でしょー!でしょー!俺もそう思う!」
「何でお前は知ったふうなんだよ、ジロー」
「だって俺もう知ってたC−!ねー?」
「なまえお前ケッコー最初の方からコイツだけ贔屓してね?」
「なっ、そ…そんなわけ」
「フーン…ボスに言いつけてやろ」
「ちょ、ベル!」
「クク。……アイツ等も、素のお前見せたらきっと目が覚める」
跡部の言葉には寂しさが孕まれていて、私は一瞬言葉を失くした。
「ごめんね、跡部。…ちゃんと話すよ」
「…いや」

跡部は首を振った。

「お前のことだ。何か意味があってやってるんだろ?」
「、」
「聞かねえよ」

ジローも樺地も頷く。
正直、驚いた。

「いつかあいつらの目が覚めて、お前らの目的も果たされたら、その時に…。俺はあいつらと一緒に“偽りのないお前”を知りたい。……まあ、若干フライング気味だが」

「それに自分らで考えたいってのもあるC−」

「ああ。…俺達は、思考を怠けすぎた」

跡部もジローも樺地も、さすがに亜里沙の裏面を勘付いているのだろう。
それでも自分で考えようとしてくれている。
その姿を、私は嬉しく思った。報われた 気がした。
「…みんな、」


「だが!」
「え?」
「俺達はもうお前の味方だ。」
「…」
きょとんとした私を見て、樺地がささやかに付け加える。
「一人で…戦おうとしないで、ください」
「俺達の事も頼って欲しいC−!」

そりゃ、お前らからしたら話にならねぇほど弱いだろうけど
それでも俺達はお前を護りたいと思う。
傷付けた分、
いや、それ以上に
「仲間」として、大切に思う。

お前の傍にいることくらいなら、俺達にも…―――

「……――また。信じてくれるか?」

彼らが欲しいもの
なまえは泣きそうな、でも嬉しそうな顔をして笑った。

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