なまえの手に持っているものを目にして、隣にいるガキ共はみんな顔を青くした。小生意気な奴らだったから結構良い気味。
(つって、言ってる場合じゃねーか)

ドゥン、ドゥンッ!!

そう言っている間にも二発。

「なあ、なまえ!王子にんなもん向けていーと思ってんの?」


黒いカーテンで遮断された太陽の光。薄暗い室内で、血にまみれた彼女は細かく震えていた。来るな、低くそう唸る。
「…」
ベルは、触れずとも空気を通して伝わってくる殺気や、その追い詰められた獣のようにギラつく瞳に、不謹慎ながらゾクリと背中を粟立てていた。

「なまえ、どうしたんだC−…!」
「俺達は何もしない、それを、置け…!」
「無理」じりっとした硬直状態の中でベルは無理やり口元を上げて言った。
「今のこいつ、俺達なんか見えてねーし」

こんなになったなまえ見た事ねーから、実際今どうしていいのかもよくわかんね。
ただ、一歩でも動けば間違いなくなまえは撃ってくるだろうし、こんな凡人共が傍にいる今、迂闊には動けない。かとって俺がなまえに攻撃するとか論外だし?つーか、つーかさ、


「こんなになるまで、アイツ等なまえに何したわけ」


ベルが呟きにも似た独り言を漏らした時、音楽室の扉がガチャリと開いた。
ずかずかとこちらに歩み寄ってきた男、ザンザスが、全ての状況を理解したように扉の前で止まった。

しかし、なまえの姿を見て流石に言葉を失くしたらしい。
ベルは一瞬、ザンザスがこの場で俺達全員を皆殺しにして、この学園ごとカッ消してしまうのではないかと不吉な事を考えたが、ザンザスはそうしなかった。



「…」

自分の姿を面しても尚警戒心を剥き出したままのなまえを見て、ザンザスは僅かに舌打つ。
「ドカスが」
あ、とジローが声を上げる。

なまえの引き金にかかったままの手が反応するより早く、ザンザスの爪先が拳銃のみを蹴り上げたのだ。それと同時に引き寄せられたなまえは悲鳴を上げ、ザンザスから逃げようともがき出した。

「やめて、はなれて、はなれて!」

ザンザスは暴れるなまえを抱きすくめるようにして動かない。

「くるな!どいて、はなれて、…ッたすけて」

「誰か、助けて」

「助けて…助けて…、ザンザス……!!  たすけて、」


ザンザスはなまえを抱きしめていた腕に力を込め、自分の顔を彼女の耳に近付け何かを囁いた。
抜群に耳の良いベルと、一番彼らに近かった跡部だけがその声を聞き取れた。

今までただ傍観する事しかできなかった跡部にも、二人の関係が深いものであると分かるような声色で紡がれた言葉は、当然のようにイタリア語だった。

「È io」

「Io sono qui」


俺だ。俺はここだ。何度も繰り返される同じ言葉。
そうしていくうちに段々と抵抗力を失っていったなまえの腕は、やがてだらりと力を無くした。どうやら気を失ったらしい。くずおれたなまえを支えたザンザスは立ち上がり、無表情で「屋敷に戻る」と告げた。


「カス鮫にも伝えておけ」
「…なあボス……オレ」
「だめだ」
「…」

ザンザスにはベルの言わんとしている事が分かっていたらしい。唇を噛みしめたベルに向かって、固い表情で続きを告げる。

「こいつに泣かれてぇなら勝手にしろ」


自分に害成す奴らを俺が殺したってなまえは泣かない。アイツが泣くのは、任務に失敗して、とばっちりでどこかの"無関係"が死ぬことだ。
それを重々に分かってるザンザスは、本当は鳥居なんかよりもよっぽど殺してやりたいはずのあいつらを殺さずにいるんだ。

「……ちぇ」

強き獣の采配

なまえの為に「殺さない」ボスが 昨日のボスより、8年前のボスより、ずっとかっけーよ

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