「では教職員諸君、今日も全身全霊で職務を全うしてくれたまえ」

はい、と綺麗に揃った声が職員室に響く。
ザンザスとスクアーロは教員席の最後列で白けた表情をしていたが、それを咎められることは無い。
というのも、たった今大演説をしてみせたこの氷帝学園の校長をボンゴレが買収したからである。そそくさと職員室を出て行く校長に舌打ちを送り、ザンザスはふてぶてしく机に脚を乗せた。

周りの教員たちは訝しげに眉をしかめる者が殆どで、何故校長はこんな男をクビにしないのかと常時額を寄せ合っている。
毛色の浮いたスクアーロに対してもまた然りな反応だ。



「君」

そんな折、果敢にもザンザスに声をかけてきた男がいた。

「…あ?」
「生徒の模範たる教員がそんな態度では示しがつかない。足を下ろしなさい」
「誰だぁ?テメェ」
隣にいたスクアーロがザンザスに成り代わって聞くと、男は威風堂々と胸を張った。

「私は榊だ。音楽教師、兼テニス部顧問の」

榊に向けられていた殺気が、そこで倍に膨れ上がった。

「…、??」

その変化に気が付いた榊と周りにいた職員たちだったが、ザンザスの垂れ流す威圧感から黙って成り行きを伺うことしかできない。
黙って腰を上げたスクアーロは、机上にあった教科書やプリントの束を荒々しく手に取り、職員室を出て行った。少しして、遠くから何かが砕かれたような破壊音が聞こえたが教員たちにそれを確認しにいく術は無かった。

「おい」
低く、低く、ザンザスは言う。

「職務 全うしてやろうか」

無能な模範など消え失せろ

「あ、ああ」答えたはずの声は掠れて音にならず、
赤い相貌が自分から逸れるまで、榊の足はその場から動かなかった。

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